不運な出来事
格闘技のエッセイにも書きましたが……先日、私はスパーリングをしていて膝が顔面に入り、額がぱっくりと割れて出血しました。
当然ながら、ジムは大騒ぎになります。私も練習を中断し、すぐさま病院へと向かうこととなりました。
ところが……なんと言いましょうか、私の人生というのはおかしな方向に転がるように出来ているようです。病院に向かおうと、傷口を押さえながらタクシーを止めようとしていた時のことです。
突然、ケータイに電話がかかってきました。誰かと思えば、仕事の関係でお世話になっている人です。だいぶ切羽詰まった口調で、こんなことを言ってきました。
(赤井くん……実は、息子が逮捕されたんだ)
私は驚きました。その息子さんは、一度だけ顔を合わせたことがありました。物静かな雰囲気でして、悪さをするタイプには見えなかったのです。
その後、話を詳しく聞きましたが……事件については、ここで書くのは控えます。一応、向こうも私を信用して話してくれたことですし、裁判どころか取り調べも終わっていませんので……。
逮捕される時、それは大抵の場合まったく想定外のところから来ます。
たとえば友人たちと歩いている時、友人Aが別のグループと口論になります。友人AとBはいきなり殴りかかり、やがて乱闘に……気がつくと、警官に取り押さえられていたとしましょう。
この場合、あなたが一切手を出さず、ただ巻き込まれただけ……ということが証明されれば、すぐに帰らせてもらえます。最悪の場合でも、留置場に一泊して検事さんに状況を説明すれば帰らせてもらえるでしょう。
ただし、ひとつ注意すべきことがあります。警官に取り押さえられた時、絶対に抵抗してはなりません。下手に抵抗すると、公務執行妨害が付く可能性があります。公務執行妨害が付くと、事態はかなり深刻なものになります。
下手をすると、留置場から帰れず……そのまま裁判を受ける羽目になります。初犯ならば執行猶予で済みますが、前科が付くことに代わりはありません。前科が付くと、いろいろ面倒なことがあります。少なくとも、大企業への就職が難しくなるのは間違いないでしょう。大企業は、独自の情報網を持っていますので。
今後、もし何かの事件に巻き込まれたとしても、警官への抵抗はやめた方がいいでしょう。特に、警官への暴行だけは絶対に避けるべきです。
さて、もし仮に身内の誰かが逮捕されたなら……まずは、信頼できる弁護士に任せるのが一番です。とはいえ、刑事事件をほとんど扱ったことのない弁護士もいますので、そこの判断を誤らないようにしてください。
逆に、おかしな人間に相談することだけはやめましょう。特にバカな若者などにでも話そうものなら、SNSなどであっという間に拡散されるのは間違いありません。そんなことになったら、確実に誰も得しませんので……相談するなら、口の固い信頼できる人間ですね。
取り調べを受けている人間は、警察署の留置場で不安な思いをしています。ですので、なるべくなら面会に行ってあげてください……と言いたいところですが、実際に逮捕された人たちに話を聞くと「両親に面会に来られるのはキツかった」と言う人がほとんどでした。親や兄弟の顔を見ると、自身が罪人であることを否応なしに意識させられ、本当につらいそうです。
なので、あまり頻繁に面会に来られると、向こうとしても困るようです……まあ生活もありますから、足しげく通うという訳にもいかないでしょうが。
ここで冒頭の話に戻りますが、私は傷口を押さえながら、電話で話を聞きました。相手の人は、本当に弱りきっている様子でして……私は「いや俺ケガしてんだけど」とは言えず、話を聞き続けました。結果、病院には翌日になってから行くこととなったのです。
しかし、ここで皆さんに知っておいていただきたいのは……あなたが逮捕されれば、こんな風に誰かが悲しむことになります。
そして、罪を繰り返す人間のほとんどが、逮捕されても誰も悲しまないような者だという話です。初めは悲しんでくれる人がいます。助けてくれる人もいるかもしれません。
しかし、そういった人たちから見捨てられたしまったら……その時は、もはややり直すことなど出来ないでしょう。
刑務所とシャバを行ったり来たりする人を「懲役太郎」などと呼ぶそうですが、彼らは一足飛びにその地点まで行くわけではありません。大抵の場合、少しずつ悪くなっていき……気がつくと、はまりこんでいる場合がほとんどです。
というわけで、ありきたりな結論で申し訳ないですが……悪いことはしないようにしましょう。「人生、いくつになってもやり直しは可能だ」と言う人がいますが、私はこの言葉を信用していません。少なくとも、懲役太郎と呼ばれるような人種は……やり直すのは、非常に困難であると思いますね。




