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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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感情的なコメンテーター

 犯罪者が逮捕されると、近所に住んでいた人のコメントが流れたりしますが……大抵の場合、評価は真っ二つに分かれますよね。


「あの子はおとなしくて礼儀正しくて、道で出会うとニッコリしながら挨拶してくれる子だったのよ。あんな悪いことをしていたなんて、今も信じられないわ」


「あの子? 前から、何かやるんじゃないかって思ったのよ。ヤクザみたいな友だちがよく訪ねて来てたし、夜通し騒いだりしてたし……道でこっちが挨拶しても無視されて、本当に感じの悪い子だったわ」


 言うまでもなく、これらは思い込みによる勝手な評価に過ぎません。

 正直に言えば、私も近所の人の顔と名前を全て把握しているわけではないのです。したがって、すれ違っても挨拶をしていない近所の人とかいるだろうな……とは思います。


 さて、仮に私が何か世間を騒がすような罪を犯して逮捕されたりしたら……なろうで書いていた小説が、ワイドショーなどで紹介されたりするのでしょうか。


メインキャスター「見てください、赤井はこんな残酷な小説を書いていたんですよ」


コメンテーターA「これは酷いですね。赤井の歪んだ人格が現れていますよ」


メインキャスター「と、いいますと?」


コメンテーターA「たとえばですが、この作品などは手足を切断された女性が主人公です。赤井には、女性の手足を切断したいという願望があったものと思われます」


アシスタントの女の子「うわ……信じられない……」


コメンテーターB「私はですね、こちらの作品に注目します。この作品の主人公は恐怖のあまり失禁し、さらにヒロインは嘔吐しています。このことから赤井は、失禁や嘔吐に異様な関心を持っていたことが窺えますね」


アシスタントの女の子「……」(無言のまま、顔をしかめて首を振る)


メインキャスター「どうやら赤井の抱えていた闇は、我々の想像以上に深いようですね」


コメンテーターC「私はですね、赤井の作品に猫が登場する頻度の高さに注目しました」


メインキャスター「猫、ですか? 単に猫好きだっただけなのでは?」


コメンテーターC「いや、恐らく違うでしょう。赤井は、近所の野良猫を殺していた可能性がありますね。人を殺すための予行演習として、猫などの小動物を殺していた……これは、猟奇的事件を起こす人間に有りがちなんですよね。放っておいたら、赤井は間違いなく人殺しをしていたでしょう」


アシスタントの女の子「恐ろしいですね……弱い動物を殺すなんて」


某俳優コメンテーター「俺はな、こういう奴が許せねえんだよ! 下らねえ小説書きやがって! 俺の前に連れて来い、ぶん殴ってやるから! こんな奴、いっそ死刑にしちまえ!」


 とまあ、こんな風にボロクソに言われることになるでしょう。自分で書いていて、なんか切なくなりますね。

 こんな風に、作品を歪められて報道される可能性が高いので、ワイドショーなどで報道されるような大それた罪は、絶対に犯さないようにしましょう……あ、もちろん報道されないような罪も犯してはなりませんが。


 さて、登場したコメンテーターのうち、AさんやBさんやCさんは、まがりなりにも冷静に事件を分析しようと試みております。また、視聴者に自分なりの考えや意見を伝えようともしております。その姿勢には、評価できる部分はありますね。その結論が、恐ろしく間違っていたものであったとしても。

 ところが、芸能人コメンテーターの発言は……ただ怒りに任せて怒鳴っているだけです。最近、こういうタイプの人は少なくない気がしますね。

 こういう人たちのコメントというのは、結局のところ何の意味もありません。感情に任せて怒鳴ったところで、何も解決しないんですよ。




 以前、児童虐待のニュースが話題になりました。その時、某芸能人コメンテーターは激怒し「親をぶん殴ってやりたい」「俺が子供を育ててやる」と怒鳴ったそうです。それに対し、視聴者からは「よくぞ言ってくれた」という声が相次いで寄せられたとか。さらに、児童福祉に関する機関などには「お前ら何やってんだ!」などという抗議の声が殺到した、とも聞いております。本当かどうかは分かりませんが。

 確かなことは、今では件の事件などすっかり忘れられているということです。そのコメンテーターが、可哀想な子供を引き取ったという話は聞いていませんし、児童福祉のために活動を始めたという話も聞いていません。

 しかし今も、児童相談所や児童委員といった人たちは、可哀想な児童のために動いています、時には、暑い中に汗だくになりながら問題のありそうな家を何軒も訪問したりしているそうです。

 この人たちは、問題のある家庭を訪問しても感情的に怒鳴ったり泣いたりはしないでしょうし、ましてや親をぶん殴ったりもしません。あくまで冷静に状況を判断し、事態に対処するでしょう。


 結局のところ、世の中の不幸と実際に戦っているのは……こうした名も無き冷静な人たちです。感情に任せて怒鳴る姿は、テレビやネットなどではカッコよく見えるかもしれません。しかし、感情的になっていては犯罪に対処することなど出来ないんですよ。

 児童虐待のニュースを見て怒り「親ぶん殴ってやる」と怒鳴る。あるいは「可哀想……」と言って泣く。こういったコメンテーターは、世間からは好感を持たれるようです。事実、それが仕事ですしね。

 しかし、本当の意味で虐待されている幼児の助けになるのは、夏の暑い日に汗を流しながらも、問題のある家庭を一軒ずつ訪問して歩く児童福祉関係の人たちです。「ぶん殴ってやる」と吠えたり、「可哀想」などと泣いてみせたりしたところで、現実に虐待されている幼児には何の助けにもなりません。

 さらに言うと、「ぶん殴ってやる」という言葉の根幹にあるのは激発的な怒りです。その怒りが、子供などの弱者に向けられる……それこそが、虐待ではないかと思うのですが。


 最後になりますが、私の地元では……かつては、虐待が平気でまかり通っていました。しつけと称して子供の顔面に蹴りを入れ何度も失神させた父親や、木刀で子供の腕を殴り骨折させた母親などがいました。学校でも、各クラスに一人くらいは痣の絶えない子がいたのです。

 そうした時代に比べると、今は確実に良くなってきています。なぜ良くなってきたか……それは、前述の名も無き人たちの地道な活動のお陰です。








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