自分だけは大丈夫、という根拠なき自信
今年(二〇一八年)の夏は、異常なくらいの暑さですね。このままだと、地球は灼熱の惑星と化してしまうのではないでしょうか。南極の氷が溶けて海面が上昇し、映画『ウォーター・ワールド』のような世界になってしまうのではないか……というバカな妄想はさておき、こうまで暑いと命に関わりますね。
実際、熱中症により病院に搬送される人は後を絶ちません。テレビのワイドショーなどでも、熱中症が原因で死亡したニュースを連日伝えています。また、車内に子供を置いたままパチンコに興ずる人のニュースも、未だに報道されるようですね。
こうしたケースのほとんどが「自分だけは大丈夫」という根拠のない自信のなせるものでしょう。人間というものは、実際に体験してみて初めて物事を本当に理解できる気がします。
振り込め詐欺が話題になって、かれこれ二十年は超えていると思われますが……これまた、被害者は後を絶たないですよね。
この振り込め詐欺もまた、実際に自分が引っ掛かってみるまでは分からないのでしょう。「自分だけは大丈夫」という無意識の思い込みにより、家では気を抜いた状態で生活しています。
そんな気を抜いた状態で、いきなり電話がかかって来る……受話器を取れば、風雲急を告げる内容です。これは、完璧な不意討ちですよね。虚を突かれ、思考回路が上手く働かなくても仕方ありません。
ところが、大半の人はそういう事実には目を向けません。このエッセイの『詐欺師の怖さ』の章でも触れましたが、世の中のほとんどの人が、振り込め詐欺に対し「騙される方がバカ。自分は大丈夫」という認識をもっているのではないでしょうか。
とまあ、ここで終わればいいのですが……そうはいきません。私は、この「自分だけは大丈夫」という根拠なき自信は、被害者のみならず加害者の側にも当てはまる気がします。
世の中には、自分は絶対に罪を犯さないと信じている人は多いです。
「真面目に生きてりゃ、暴力事件すら起こさない」
「俺は苦労したけど、悪いことは絶対にしなかった」
「私は今まで生きてきて、犯罪と関わったことなど一度もありません。万引きはもちろん、信号無視さえしませんから」
こんな風なことを、ネットなどで豪語する人は少なくありません。で、こういう人たちは決まって「だから、犯罪者の刑はもっと重くしろ」などと主張したりします。
私は、こうした意見をドヤ顔で主張する人を見るたびに思うんですよ。この人たちは、本当にごく普通に真面目な生き方をしてきたんだろうな……と。何の障害も不運な偶然にも遭わず、人生の山も谷も経験せずに生きてきたんだろうな、と思わざるを得ません。
不運な偶然が重なり、犯罪者になってしまう……こういうケースは珍しいことではありません。 たとえば、夜道を歩いていてチンピラに因縁を付けられ、身の危険を感じて殴ったら相手が倒れた……この時点で、傷害罪が成立します。
さらに、頭を打って死亡したら……これは傷害致死です。夜道で因縁を付けられたという点を考慮しても、三年以上の実刑は確実でしょうね。
ちなみに、正当防衛という言葉があります。急迫不正の侵害に対し、自分または他人の生命や権利を防衛するために、やむを得ずにした行為を指します。早い話が、放っておいたら殺されそうだったから、仕方なく暴力を用いて相手を制した……というケースです。
この正当防衛が成立すれば、仮に相手を殺しても罪には問われません。が、正当防衛を成立させるのは非常に難しいとか。
少なくとも、先に殴られたくらいでは正当防衛にはならないそうです。裁判になった場合、争点は「そこまでやる必要があったのか」という部分になるとか。仮に相手が先に殴っていたとしても、怪我の状態によってはこちらが罪に問われる可能性が高いそうです。
相手が悪くても、暴力を振るえば罪に問われる……それは覚えておくべきでしょうね。
正当防衛に関して詳しく知りたい人は、専門家に聞いていただくとして……世の中には「俺は絶対に犯罪者にはならない」と盲目的に信じきっている人があまりにも多い気がしますね。
自分は罪を犯さない、その自信の源は結局のところ「自分だけは大丈夫」という根拠なき思い込みでしょうね。今までの人生において大きな挫折を経験することなく、周囲にもそうした人がいない……だからこそ、今後の人生にも何の問題もないだろうと信じているのでしょうね。
私は、そうした人たちに「あなた方は間違っている」などという気はありません。そもそも、そういう人たちは私のエッセイのような下らないものなど読んでいないでしょう。
ただ、一つだけ覚えて欲しいことがあります。犯罪者になりたくてなった者など、ほとんどいないんですよ。幼い頃は皆、我々と同じく将来に輝く夢を持って生きていたはずなんです。
それが、気がついてみると裏の世界にどっぷり浸かっている……しかも、様々なしがらみや人間関係が出来上がっています。そこから抜け出すのは、我々のような一般人には想像することすら出来ないでしょう。
ですから、我々もいつ犯罪の被害者になるか……あるいは加害者になるかもしれない。その意識だけは、忘れずにいたいですね。
悪魔というのは、気づかぬうちに近づいて来ます。少なくとも私は……家族の事故もしく病気などといった不運な出来事に遭い、大金が必要になるという視野狭窄の状態の時に、目の前に多額の現金があったら「俺は絶対に盗まない」とは言えません。「盗まなければならないような事態に陥らないよう、日頃から気を配っていたいです」としか言えないです。




