予想外の再会
期末テストが終わり、冬休みが間近に迫っていたころだった。
この日は珍しく一人で帰っていた。
その途中、道端で屈んでいる豪を発見した。
「どうしたの?」
「子猫…」
「子猫?」
覗き込むと、そこには子猫が豪に撫でられて気持ちよさそうにしていた。
「かわいい」
「だろ、思わず触っちゃったんだ」
陸も屈んで、豪と一緒に子猫を撫で始めた。
「フワフワして気持ちいいね」
「うん、でもこんなところにいたら車に轢かれちゃうよな」
豪は子猫を抱えて歩き出した。
「どこ行くの?」
「家に連れて行くわけにはいかないから、公園にでもって」
「ああ、それがいいね」
陸は豪と並んで歩いて公園に行った。
「野良猫かな?」
「わかんないけど多分」
公園の原っぱに子猫を置くと、「にゃあ」と泣いてどこかへ行ってしまった。
「半田くんって優しいんだね」
「そうか?別に普通だと思うんだけど」
豪は照れることもなく、平然としていた。
自然に優しい行動ができる人間は本当に優しい人間だ。
「もうすぐ冬休みか、宿題面倒くさいな」
「本当に勉強とか嫌いだよね」
「好きなやつなんていないだろ、佐久間は好きかもしれないけど」
「私だって好きじゃないよ、
けどやりたいことがあるから、そのために頑張ってるの」
「やりたいことって?」
「小学校の先生になりたいの」
「へー、でも佐久間なら向いてそうだな」
「ホント?」
「ああ、優しくてしっかりした先生のイメージ。そのまんまだけどな」
こういう風に言われ、なんとなく嬉しかった。
豪がちゃんと陸のことを理解し、どういう人間かわかっていたので嬉しかった。
そういう豪が陸は気に入っていた。
それがわかったとき、陸はやっと自分の気持ちを知ることができた。
私、半田くんのこと好きなんだ
「やっぱ冬休みもずっと勉強するの?」
「んー、ずっとはしないかな」
「じゃあさ…一日だけ俺と遊ばない?」
「え~…」
陸はそのあとすぐに答えなかった。
「だよな、わりぃ気にす」
「いいよ」
「んな…え?」
「その代わり楽しいところ連れて行ってね」
「あ、ああ」
このとき陸は自然と笑顔になっていた。
私、きっと付き合うだろうな
その予感は的中し、年が明けた1月末、豪に告白された陸は頷いて豪の手を握った。
「もう3年生かぁ、早いね」
「あと1年で卒業だもんね」
陸と莉奈は学校に向かっていた。
今日から3年生としての1学期を迎える。
見た目はいつもと変わらないが、陸は彼氏ができ、希美が家を出て行き、
見えない変化はいろいろと起きていた。
3年のクラス発表を確認すると、莉奈と同じクラスだった。
「莉奈と一緒だ!」
「ホントだ、小学4年以来だね!」
最後の中学校生活が莉奈と同じクラスというのはすごく嬉しい。
他にもみな実、麻理恵が同じクラスで、彼氏の豪が違うクラスだった。
教室へ行くと、みな実が早速話しかけてきた。
「愛花、3年間一緒だったね。小学校を含めると5年間だ」
「だね、でも一緒でよかった」
「愛花」
「麻理恵!」
「やっと同じクラスになったね」
「うん、よかったよ」
3年も楽しくなりそうだ、そんな予感がしていた。
チャイムが鳴り、みんなが席へ着くと教室の扉が開き、男性が入ってきた。
30代半ばくらいの見たことがない教師、新任だろうなと思いながら
その顔をよく見ると、陸は驚いてしまった。
「え!?」
前の席の子が「どうしたの?」と聞いてくる。
「う、ううん…何でもない」
そんな、なんで…人違いだよね?
「えー、このクラスの担任になった佐竹佳祐だ。新任だがよろしく」
佐竹佳祐、やっぱり佳祐だった…
陸は佐竹佳祐という教師を知っている、正確には佐竹佳祐という男を知っている。
話は今から16年前にさかのぼる。
高校生活に慣れていた来た頃、仲良くなった奴がいた。
そいつは佐竹佳祐、簡単に言えば明るくお調子者でバカだ。
「おい陸、今日俺んちでゲームやろうぜ」
「なんか新しいの買ったの?」
「買うはずねーじゃん、金ないもん」
「なんだよ、またいつものか」
そんな話をしながら、頻繁に佳祐とゲームをして遊んだ。
2年になっても毎日のように遊んだ。
「なあ、4組の水沢祥子って可愛くない?」
「あの子か、何好きなの?」
「まあな、陸だったらどうやって告白する?」
「そりゃ直接言うよ」
「マジで?俺はメールか電話か直接か迷ってて」
「告白するなら直接にしておけ。けどやめたほうがいい」
「なんでだよ」
「振られるに決まっているからだ」
「テメー、陸!」
そんな佳祐だったが、2年の終わりにダメもとで告白したらOKがもらえ、
佳祐に初めて彼女ができた。
「どうだ、俺もやるときはやるだろ」
「奇跡だな、それ以外考えられない」
「お前も彼女作れよ」
「そうだな…」
陸は特に彼女がほしいと思ったことがなく、ずっと彼女はいなかった。
だから佳祐に彼女ができても羨ましいとは思わなかった。
「今度初デートだからよ、コンドーム用意しておかないと」
「お前バカか!?初デートにそんなもん持っていく奴いるか。やめろ、絶対に持っていくな」
「だってよ、何があるかわかんねーじゃん」
「何もねーよ、バカ」
相変わらず佳祐はバカだ。
そう思いながらも、陸にとってはかけがえのない親友だった。
そして3年の夏休み、受験を控えた陸は勉強のために図書館へ向かう支度をしていた。
夏休みは毎日図書館で勉強すると決めていたのだ。
そのとき携帯電話が鳴ったので見てみると、親友の佳祐からだった。
夏休みは真面目に勉強するから遊ばないと宣言しておいたのに、あのバカ。
陸は携帯電話を取らず、参考書を鞄に入れ、玄関で靴を履いた。
「じゃあ行ってくる」
「気をつけてね」
奥から母親の声が聞こえた。
ドアを開けると午前だというのにむわっとした暑さに襲われる。
一瞬ためらったが、ドアを閉めて歩き出した。
このあと事故に遭い、陸としての人生に幕を閉じた。
あいつが中学校の教師になっていたなんて…
しかも、何でこの学校の、このクラスなの?
信じられない偶然に陸は動揺するばかりだった。
「みんな受験が控えていて大変だろうが、最初に一つだけ言っておく。
交通事故にだけは気を付けろ。
交通事故というのは何の脈略もなく、一瞬で人生を奪い去る。
今までの努力も、人生もだ。
そして残された者はさよならも言えず苦しい思いをする。
だから事故だけは気をつけるように」
まったく話の流れになっていない、唐突もいいところだ。
みんなポカーンとしているなか、陸だけは佳祐が言っていることがわかった。
あいつ…私のことを言っている
特に最後の言葉が引っかかった。
さよならも言えず…そう、陸は誰にもさよならを言えなかった。
16年経った今でも佳祐は苦しんでいる…。
学校が終わり、教室で莉奈たちと話していたら、佳祐の話題になった。
「なんか佐竹って変な奴だよね」
「ね、いきなり事故には気を付けろって意味がわからなかった」
「きっと独身だよね」
「そんな感じするー」
みんなが盛り上がっている中、陸はうわの空だった。
「愛花、どうしたの?」
「ううん、何でもないよ!それより帰ってからカラオケ行こうよ」
陸は話題を変え、佳祐の話を終わらせた。
すいません、更新がだいぶ遅れてしまいました。
多忙だったのと、厳しいご指摘が多いのでへこんでました。
このままやめようかとも考えたんですが、楽しみにしているという感想もあり、
非常に嬉しかったのでもう少し頑張ってみます!
引き続きよろしくお願いします。




