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テストでいい点獲った

長いです。

しかもほとんど雑談です。



「久しぶりだな」


 朝のホームルームが終わった後、俺は三崎先生に呼び出されていた。その手には今回のテストの答案が握られている。


「言いたいことは……まあ、色々あるんだが、とりあえずテストを返しておこう」


「はい、ありがとうございます」


 先生から答案を受け取った俺は、折り畳まれたテストたちをペラリと捲る。そう言えば、もし俺が御手洗さんよりテストの点数が低かったら退学って話はまだ有効なのだろうか。


「えっとー」


 100点、100点、100点……。


「全部満点だ……」


 よし……よしっ! やったぁぁぁぁっ!

 やった! ついに全教科満点だ!


 前世では一度も取ったことがなかった全教科満点!

 この世界に来てついに達成した!

 まあ、水無月透時代は中学生で習った内容が多く含まれていたり、人生2周目というちょっとしたズルもあるのだけれど、それでも嬉しいものは嬉しい!


 思わずガッツポーズが出てしまう程度には。


 くうぅぅっ! 最高だぜ!


「呆れちまうな。うちの学校のテスト、そんなに簡単じゃないんだぞ?」


「お勉強した甲斐がありました!」


「ああ、そうだな。これでもう少し大人しくしてくれれば素直に喜べるんだが」


 苦笑いを浮かべる三崎先生。


 彼女にはかなり迷惑を掛けているので気持ちは分かるのだけれど、俺が首を突っ込まなくなった場合、今度は朝比奈さんがひとりで百の試練を乗り越えなければならなくなる。先生は俺を問題児扱いするけれど、俺が何もしなくなったところで、問題児が朝比奈さんに切り替わるだけ。問題自体はなくならないのだから、先生の悩みの種が消えることはないかもしれない。

 

「正直、私は教師として、お前の扱いに困っているのは確かだぞ? そもそもお前、御手洗とは元々仲が良かったわけでもないんだろう? 他人のためになんであそこまでできるかねぇ。お前の行動理念が私にはさっぱりだ」


 行動理念か。

 俺も深く考えたことはなかったな。

 ただ前世の記憶を持つ人間として、それを義務のように感じていたのは確かだ。

 誰かを助ける責任なんて俺には全くないのに。


「でもきっと、これが俺なんでしょうね。御手洗さんの為だったかと言えば、そうじゃないです」


 なら、自分の為か? 否。

 なら、正義の為か? 否。


「多分、意志なんてないです。何も考えてないです。けど、正しいことをするのに時を選ぶ必要はにゃいと思うんです」


 なんて。

 少し格好付けたセリフを吐いた俺だったが、最後の最後で噛むという失態を犯す。我ながら、本当に締まらないな。

 ポッと羞恥心で顔が熱くなったのが自分でもわかる。


「ははっ。今噛んだろ? 正しくは『必要はない』だな」


「せっ、先生、俺は今かっこいいこと言いましたよね? 聞き流すのがいい大人の対応だと思うんです。正す必要はないと思うんです!」


「正しい事をするのに、時を選ぶ必要はないんだろ?」


「くっ……」


 さすがは先生だ。言葉の扱いが上手い。

  口論とかになっても直ぐに負けちゃいそうだ。



 その後、俺は先生と二言三言言葉を交わしてから踵を返したのだけれど、続いて声をかけてきたのは、上品な仕草で髪を掻き上げた皇さんだった。


「随分とご機嫌ね。秋梔くん。──秋梔夏芽くん?」


 皇さんは優雅に俺の目の前まで歩いて来ると誰のかも分からない机に腰掛ける。脚を組む仕草でさえも、芸術のように美しい。


 まあ、芸術がすべて美しいかと言われたらそれは違うのだけれど。それでも、なんというか……そう。彼女の一挙一動にはすべて華があるのだ。


「おはよう、皇さん。実はさ、今回のテスト全部満点だったんだ!」


 つい、はしゃぎながらに俺が言うと、皇さんは切れ長な目を丸くしてから、呆れたように笑った。あなたなら不思議ではないわね、と先生と似たような反応をする。


「さすがよ。私が家庭教師の先生に選んだだけのことはあるわ」


 それ、俺を褒めているようでいて、自分の審美眼を褒めてるだけだよね? 

 こういうところ、本当に皇さんだなあと思う。


「でもまあ、皇さんの成績を考えると、この学校に通うほとんどの人が先生になれるんじゃないかな?」


「ふんっ。言ってくれるじゃない。私に喧嘩を売るとはいい度胸ね。でもね、あなたは大いに間違えたわ。ふふっ。あのね先生。私、今回のテスト44位だったのよ?」


「え? ほんとに……?」


 中間テストではビリ争いをしていた皇さんが!?


「嘘を吐く必要がないでしょう。つまりはこの学校には私より馬鹿なやつの方が多いというわけよ。とても快感だわ」


 相変わらず、他人を見下した物言いをする。さすがは上級国民。ボロアパート暮しの俺とは育ちが違うんだろうな。


 けど、そっか。ちゃんと努力が報われたんだ。


「すげぇよ。よく頑張ったよ。良かったね!」


 思わず溢れた笑みをそのままに、俺は拳を突き出す。皇さんは「なによ、調子狂うわね」と、何故か拗ねたような顔をしてから、こつりと拳を重ねてくれた。


「……まあ、それでね。その、あなたにはお世話になったわけじゃない? だから、お礼をしようと思って」


「お礼? いや、いいよいいよ。お金だって貰ってるし、あくまで俺は仕事としてやってるわけだし」


 そう。対価は既に彼女の父親から頂いている。

 これは契約だ。本来なら、彼女が俺に感謝する必要すらないのだ。


 いや、むしろ彼女がこうして結果を出してくれたことが俺にとっては一番嬉しいことだ。

 自分のことのように嬉しい。


「いえ。お返しさせて欲しいわ。確かにあなたは仕事で私の勉強を見てくれているわけだけれど、対価は親に払わせてしまっているわけで、私が直接何かを返せている訳ではない。そうでしょ?」


「それはまあ、そうだけど」


「あのね、秋梔くん。あなたが思っている以上に、私は嬉しかったのよ。あなたに出会うまで、私はずっと底辺だったのだから」


「うん、まあ、そう言って貰えるのは嬉しいよ。でも、その努力は皇さんがしたものだし、何より俺なんかいなくても、皇さんがその気になればいつでもできたんじゃないかな」


 彼女は別に特別頭が悪い訳では無い。

 ただやり方が下手なだけ。勉強方法のコツさえ掴めば、すぐにでも俺は必要なくなるだろう。

 

「過ぎた謙遜は嫌味になるわよ? あなたがどう思おうと、私はあなたに感謝している。それでいいじゃない。あなたに何か損があるかしら」


「それは……ないな。うん、ない」


「なら、黙ってこれを受け取りなさい」


 と。皇さんはずっと手に持っていたカバンのようなものをこちらに掲げる。


「えっと、これは?」


「今日、球技大会でしょう? お弁当を作ってきたのよ。中身はカツ丼ね。私は食べたことがないのだけれど、庶民の中には勝負事に際して食べる人もいると聞いたから、爺やに協力してもらって、作ってきたのよ」


 カツ丼……だと!?


「……手料理は初めてだから味の保証は出来ないけれど、それでもいいなら、有難く受け取りなさい」


「えっと、うん! ありがとう、嬉しいよ」


「嗚呼、先に言っておくれど。残念ながら、隠し味は入ってないわ」


「隠し味かあ。皇さんって結構拘るタイプ?」


「いえ、愛情が入っていないという意味よ。料理って難しいのね。なかなか上手くいかないの。ムカついたから、唾でも吐き入れてやろうかと思ったわ」


「お、おう。……そういうのは馬鹿正直に言わなくてもいいんじゃないかな」


「でも、食べた後に感想訊いて『隠し味は?』なんて言葉があなたから返ってきたら困っちゃうじゃない? 私の唾液です、だなんて口が裂けても言えないわ」


「思っただけじゃなくて行動しちゃったのっ!?」


「冗談よ」


「そっか、それを聞いて安心したよ」


 本当に、安心した。

 前世の話ではあるが、クラスメイトの男子から女子から貰ったバレンタインチョコに異物が混入していた話を聞いたことがある。(盗み聞きではなくて、本当にたまたま聞こえただけ)


 曰く、彼が受け取ったチョコは駄菓子のチ○コバット……チョ○バットで、それに釘が刺さっていたのだとか。

 当の本人は、これがホントの釘バット! だなんて笑っていたけれど、ぶっちゃけシャレにならない。


 ま、まあ、俺は妹以外からチョコレートを貰ったことがないので、心配いらなかったんだけどね。

 モテなくてよかったあ。危ない危ない。長生きしたければモテないことも大切なのだ。まあ、死んだけど。


「さっきも言った通り、味はを保証できないし、愛情よりも憎しみが詰まっているわけだけれど、まあ、食べたければ、食べればいいわ。別に、棄てても構わないけれど」


「ううん。頂くよ。それにね、きっと美味しいに決まってる」


「あら? 随分と言い切るのね」


 彼女の指に貼られた絆創膏。

 それを見れば、彼女が料理下手であることは確かだろう。頑なに予防線を張ろうとしている辺り、その推測も間違いじゃないと言える。

 だけど、言い換えれば、出来ないなりに頑張ろうと思ってくれた証でもある。それも俺の為に、だ。嬉しい。至極光栄だ。

 その事実だけでもうお茶碗3杯だよ!

 

 

「べっ、別にこれはマングースに引っかかれただけよ」


「なんでバレる嘘を吐くのっ!?」


 そこはせめて猫じゃない!?

 恥ずかしそうに顔を染めてるけど、それも演技だって分かってるから!


「はいはい。じゃあ、本当のこと言うわよ。血を入れました。はい、これで満足?」


「結局異物混入してるじゃんか!!!」


 話を振り出しに戻さないでよ。

 全然進展しないじゃんか!


 ……まったく。


「要するにさっきの話は伏線だったってわけよ」


 それにしては回収が早過ぎないだろうか。


「いや、でも。俺、思うんだどさ、料理において本当に愛情が必要なのって作り手よりも受けての方なんじゃないかな」


「ふーん。その見解は新しいわね。どうしてそう思うの?」


「いや、単純な話しだよ。好きな人が作ってくれた料理は美味しく感じるものでしょ?」


「一理あるわね。でも、その理論だと、あなたが私に好意を抱いていることになるのだけれど。これからも私の味噌汁を飲みたい的な想いがあなたにはあるのかしら」


「あ、いや、そういう訳じゃないかな。それに皇さんの家って、味噌汁なんて出てこないでしょ? ふかひれスープ出てきちゃうでしょ?」


「あなたサラッとフッた上に、裕福層への偏見がすごいわね。味噌汁くらい普通に飲むわよ」


 ジトーっと目を細める皇さん。

 圧がすごい。


 そう言えば、俺が勉強合宿で皇家に泊まった時も、味噌汁は朝食で出てきたっけ。


「はあ。まあいいわ。あなたが美味しく食べてくれると言うのなら、私も作った甲斐があるというものよ」


 話を締めるように、皇さんはそう言った。

 ぴょい、と机から立ち上がり、去っていく彼女の後ろ姿は変わらず優雅だった。


 それにしても。

 今日のお昼はカツ丼3個か。

 お弁当を作って貰えた嬉しさが勝ち過ぎて現実をあまり直視できていなかったけれど、これってなかなか俺の胃袋ピンチなのでは?


「クックック。去るものを追わず、立ち尽くす案山子よ、何故晴れぬ顔をする? これから始まるラグナロクを前に怖気付いたのではあるまいな?」


 突如後ろから掛けられた声に、背中がぴくりと震える。この声は恐らく、柏卯てつ子ちゃんだ。

 今、このタイミングで俺に声をかけてくるということは──


「さ、さては柏卯さんも俺にカツ丼のお弁当をプレゼントしに来たのでは!?」


「ひゃうっ……! ビッ、ビックリするじゃないですか。急に大声出さないで下さい!!」


「あ、ごめん」


「とっ、というか、なんで私がお弁当作って来たって知ってるんですか!? ……ま、まさか私のクルッポーを監視してるとか……? や、やめてください! もしかして今日の投稿見たんですか!?」


 小柄で運動音痴。

 そんな柏卯さんが俺の服を掴んでグラグラと揺らす。普段からは考えられないすごい力だ。


「み、見てないよ。断じて見てない」


 俺はただ今日話しかけてきた女の子達が、全員俺にカツ丼のお弁当を渡してきたから、予想しただけである。(三崎先生とも話したが、彼女は年齢的に女の子ではない)


 あ、でも夜鶴には貰ってないや。


 柏卯さんの様子を見るに、彼女のクルッポーには見られたくないような内容が載ってるのかもしれない。


 俺は揺さぶられながらも必死に弁明を続ける。


「信じていいんですね?」


「いいよ。俺は正直村の出身だからね」


「詐欺師村の間違いでは?」


 嘘つき村ですらなかった……。


「まあ、良いですけど。では、どうぞ」


「うんっ。ありがと!」


「……っ! まあ、いえ」


「?」


 俺はテストの答案とお弁当をふたつ持って自分の席へと戻る。


 秋梔夏芽の胃袋とカツ丼4つ。勝つのはどっちだろうか。


 

お読みいただきありがとうございます。

サブヒロインたちがカツ丼をくれるお話でした。


一応メインヒロインは夜鶴、愛萌、心々良のつもりで書いてます。


登場人物多いと大変です。。。

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お読みいただきありがとうございます。 高評価頂けると更新の励みになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。 大量のメスガキとダンジョン攻略するローファンタジー  メスガキ学園の黒き従者〜無能令嬢と契約した最凶生物は学園とダンジョンを無双する〜 小説家になろう 勝手にランキング
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