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余裕じゃないな




 学年主任の先生にしこたま怒られた俺はよろよろと保健室に向かった。愛萌に殴られたあごが痛いので、保冷剤を貰うつもりだ。


 割れてたらどうしよう。

 ケツアゴになってたらどうしよう。

 一抹の不安と共に、保健室の扉を開けて中に入ると、そこには今一番会いたくない人物が座っていた。


「あっ」


「御手洗さん……」


「「……。」」


 気まずい……!


 俺は居た堪れなくなって、すぐさま視線を逸らす。


 きっと彼女は俺を恨んでいるだろう。

 だからといって「君の為に水を掛けたんだよ」とは言えない。そんなのダサ過ぎるし、謝罪もせずに許してもらおうとしているみたいでイヤだ。


 俺はどうしたものかと必死に頭を回転させながら唸る。しかし、いい案は全然浮かばないし、何より御手洗さんがずっとこっちを見ているのが辛い。


 やっぱり怒ってる? 怒ってるよなあ。


 どうしたらいいのか全然わからん!

 とりあえず謝ればいい? 全然反省はしてないけど!


 これだったら、むしろ御手洗さんが怒って文句を言いに来た方がマシだったのでは?


 ちらりと横目で御手洗さんを見る。

 やはり彼女は無言でこちらを見ていた。


「えっと……」

「どうして?」


 ……っ!


 無言に耐えかねた俺が喋り始めたと同時に、御手洗さんも口を開いた。本当にタイミングが悪い。

 ただ、御手洗さんから話してくれるならば、都合は良いとも言える。俺は口を噤んで彼女が話すのを待った。


「……。」


 いや、喋らんのかい!


 ついに御手洗さんも顔を伏せてしまう。せっかく最近になってコミュ力が上がってきたと思っていた俺だけれど、こういった状況下ではまだまだ地底人レベルだ。


「どうして、私に水を掛けたの?」


「えっと……それは……」


 な、なんて答えるのが正解なのだろう。

 本当のことを言う? でもそれってやっぱりダサくないか?


「やっぱり私を守ってくれたの?」


「っ!」


 そういえば、水を掛けるときにそんな事を言った気がする!

 言わなきゃ彼女の心が壊れてしまいそうな状況だったし、やむを得なかった。


「ま、まあ、御手洗さんの捉えたいように捉えてもらっていいよ。ただ、その……ごめんね。俺は御手洗さんに対して悪意を持っているとか、そういうのは、ないから」


 なんか無難な言葉で返しちゃったけど大丈夫かな。偉そうなやつとか、思われてないかな?


「……じゃあ、そういうことにしておく。私を助けてくれてありがとう」


「お、おうよ。良いって事よ!」


 タジタジになりつつも余裕ぶる。

 仕方ないだろう? だって御手洗さんが今、初めて俺に笑顔を向けてくれたのだから。

 聡明な彼女のことだ。もしかしたら、俺の真意に気付いているのかもしれない。


「助けてくれてありがとう。すごく、感謝してる。あなたのお陰で、私はまだ生きていける……。それから、これまでごめんなさい」


 ぺこりと頭を下げる御手洗さん。

 おそらく、彼女がこれまで俺に対してきつく当たってきたことを言っているのだろう。


「私、薄々気付いてはいたの。あなたの後ろの席になって、勉強している様子を見て、本当にちゃんと努力してるんだなって……だけど、私のプライドと醜い嫉妬から、貴方にはイヤなことをたくさん言った。……だから、ごめんなさい」


「……そっか。じゃあ、これからは、仲良くしてね」


 気持ちは分かる。

 努力していればしている程に、才能への嫉妬は大きくなるし、結果への道程に拘りを持つようになる。俺だって、かつては同じ道を歩んだし、これから同じ気持ちを抱くこともあるだろう。


 高校生活2周目の俺はどちらかと言えばズルをしている側ではあるし、彼女に対して厳しいことを言う気にはなれない。


「対立は争いを生むこともある。でもさ、その争いが友情を生むことだってあるんだよ。もしも、御手洗さんが俺を許してくれるなら、これからもお互い切磋琢磨し合おう。──好敵手(ライバル)としてさ」


 俺は右手を差し出す。仲直りの握手だ。

 これまで険悪な間柄ではあったけれど、未来までもがそうである必要なんてない。

 これから塗り替えていけばいいのだ。


「……本当、変なやつ。不良みたいな格好してるくせに超お人好し。きっとこれまでも、こんな風に損ばかりしてきたんでしょ?」


「否定できない……」


「揉めたはずのクラスメイトとばかり仲良くなっていく理由がようやくわかった。私も今日からそのひとりになってもいい?」


「えっと、それってつまり……」 


「こんな私でも良ければ、あなたの好敵手(トモダチ)として、互いに高め合っていければと思う。……から、これからも、よろしくね」


 差し出した手を握った御手洗さんは泣いていた。

 大粒の涙をぼろぼろと零したまま、それを拭いもせずに微笑んだ。


 嗚呼、 ──さすがは御手洗花束。


 彼女はとっても器用だ。



 こうして、御手洗さんとの和解を果たした俺は、ほんの少しだけ胸が軽くなったのだった。

 よかった、よかった。めでたしめでたし!


「あ、その……言い難いんだけどね、あなた今回の件で退学になるかもって……」


「あはは。余裕だよ、余裕。何とかするさ!」


「……。」


「……。」


 ぜんっ、ぜん! 余裕じゃないなっ!!!!

 何とかしなくちゃ!!!

 

お読みいただきありがとうございます。

本章、若干長引いていますが、もう少しお付き合いください。

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