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隣町の図書館へ

 土日を挟んでしばらくした水曜、公也の姿は村に唯一あるバス停にあった。

 時間は午前九時過ぎ。それでもここに到着するのに、三十分以上かかった。

 今日は皆で隣町の図書館に行く予定になっているのだが、公也はすでに疲れ果てていた。

 バスは一日に三本しか来ない。午前九時半、昼の二時、そして夕方六時だ。このバスの運行区間で乗り過ごすというのは、すなわち一日の終わりを示す。夕方の最終便に乗ることは出来るだろうが、うっかり乗り過ごしたことを想像して、公也は背筋を震え上がらせていた。

 と、そこへ香琴を連れた美月がやってきた。話していた通り凪沙は来ていない。美月は白いブラウス姿で、香琴はチェックのスカートにシャツを合わせて麦わら帽子をかぶっている。

 公也が手を上げると、美月がくいと唇の片端を上げて応えた。

「無事到着出来たのね、ハムくん」

「いや、到着出来ないような場所を指定するな」

 と言ったものの、その実ここに到着出来るかどうか、歩いている最中公也は不安でならなかった。慣れない田舎の道に、目印となるようなものはまったくない。三度ほど行き帰りを繰り返して、ようやくここに到着出来たというのが事の真相である。

 だが、その行き帰りした分を除いても、このバス停は公也の家のある集落の真ん中からやや外れたところにある。バス会社も滅多に客の乗らないこんな辺鄙な場所に、車を寄こしたくはないらしい。

「美月ちゃん、私バス乗るの久し振りだなあ」

「そうね、普段は家の車でどうにかするし、あまり使わないわね」

 停留所の標識を見て、香琴は嬉しそうににこにこしている。考えてみれば、公也もこの村に来るのに父の車でやってきて、公共の交通機関を利用した覚えがない。

 時間さえ見計らえば、この村から出てどこか街の方へ行けるだろうかと、公也が淡い期待を抱くと、その考えを看破した美月が冷たい一言を寄こしていた。

「今から図書館のある村の役場前に着くのに、一時間ね」

 公也は頭の中ですっと計算を済ませ、大きく溜息をついた。役場まで一時間、更にバスに乗って電車のある町に出るのに二時間、そこから電車を待って更に一時間、これでは到底街に出ることなどできない。つくづく辺鄙な場所に来てしまったと、公也は思わず嘆きそうになった。

 こういった時は考えを切り替えるに限る。公也は美月に今日の目標を尋ねた。

「図書館行くのいいけど、何か目星ついてるの?」

 美月は腕を組んで、前を見ながらゆっくりと頷いた。

「古い地図なんかを見て、以前言っていた三方の鬼に繋がる手掛かりを探すの。新しい考えが浮かべば儲け物だし、見つからなかったら見つからなかったで仕方ないわ」

 彼女の口調から割り切ったものが臭ってきた。元より宝などなくて当然のもので、見つかれば奇跡といったものだ。そこから考えれば彼女の宝など見つからなくて元々、見つかれば万々歳という考えは理に適っていると言えた。

 ただできれば見つかってほしいという思いもある。美月自身も諦めているわけではなく、新しい発見がそこにはないかもしれないというものだろう。

 しばらくすると、バスが来た。塗装がはげかけた、年代物の車両だ。

「もう少し遠くなら、新しいのが走ってるんだけど、ここじゃ仕方ないわ」

 美月がぼやきながら、停車したバスに乗り込んだ。続いて香琴、そして最後に公也がゆっくりと乗車していった。

 こんな田舎であっても、バスの到着は一分の狂いもない。日本らしい几帳面さを、窓から流れる緑色の景色に公也は委ねていた。

 三人の他に乗客はいるわけもなく、バスは安全運転を標榜しているのか、ゆっくりと牛があくびをするように進んでいく。

 公也はふと美月の方を覗き込んだ。先日の話が冗談なのかどうか気になった。

 美月はすっと彼に視線を寄こして、また窓の外へ目をやった。好意らしい好意をあまり感じることはできない。

「ハムくんは私が冷たい女だとか思ってるでしょ」

 いやと言うのが格好いい男なのだろうとも思ったが、嘘をいうのも気が引けたので、彼は素直に頷いた。

「冷たいっていうか、淡泊とか言い方は色々あるけど、感情の起伏が大きい人だとは思わない」

「それは事実ね。派手なこと、あまり好きじゃないし」

 彼女はぽそっと呟いて、スカートの端をきゅっと握った。すると横から香琴が口を挟むように声をかけてきた。

「もしハムくんがそう思ってるんだったら……ちょっと寂しいな」

「そうなのかな」

「美月ちゃん、結構情熱的な人だもん。私の方がよっぽど冷めてるし」

 香琴の言葉は、まるで美月をかばっているようでやや苦しくもあった。その機微に気付いたのか、美月が香琴にふっと笑みをよこした。

「香琴は優しい子よ。私、好きな人の前だと捻くれちゃう性格みたい」

「だから……多分それ思い込みだよ」

「少なくともハムくんに私の感情をどうこう言われるほど自分を安売りしてる覚えはないわ」

 美月の言い分ももっともで、公也は素直に頭を下げた。そんな情けなさのしみ出ている公也を励ますように、美月が悠然と口元を緩めて、上から頭を撫でた。

「この話はいずれどこかで決着のつくものだし、今はいいじゃない」

「そう、まずは宝だね」

 香琴も先日の探索体験以降、俄然やる気が出てきたようである。公也も未だにあるわけがないと思ってはいたが、もしかすると、という思いが芽生えつつあるのも確かだった。

「美月ちゃん、宝ってどんなのだと思う?」

 香琴が真ん中に座る美月に寄り掛かって、声を弾ませた。彼女は少し考えたあと、公也をちらりと見て丸投げした。

「さて、どんなのだと思う?」

「俺が知ってるわけないだろ。まあ……妥当なところで財宝とかなのかなあ」

「平家の落武者が残したなんて言うんだから、意外と文化的なものかもしれないわよ」

「美月ちゃん、それって絵巻物とか本とか?」

「そう。ある意味では普通の金銀とかよりも価値があるわよね」

 美月の含み笑いに、嫌が応にも期待が高まってしまう。なくて当然のはずなのに、彼女の言い方は、宝がもうすぐ手の届く範囲にあるような錯覚をさせてくるのだ。

 こうやって観察していると、確かに彼女がある意味で凪沙と違うリーダーシップの持ち主であるということを痛感させられる。穏やかな香琴がうまくやれているのは、この二人が自分の方向性をよく知っている証左でもある。

 山道を抜けて丘を下ると、やや新しい感じのする家がぽつぽつとある村落に辿り着いた。普段住んでいる村に比べて、まだ人が住んでいる感じはするものの、基本的に辺りにあるのは田畑ばかりで田舎であることに違いはない。

 バスに乗れば、全日制の高校に行けたのかもしれないと、ふと公也は夢想してみたが、バスはそもそも朝には来ない上に、野山を駆け上って自転車を漕ぐ苦労を考えれば、あの地元の通信制の分校に通うのがましだろうという結論に達した。

「あ、コンビニがある」

 公也が斜め前を見て、驚いたように呟いた。日本全国のコンビニ網は凄まじいもので、こんな僻地にさえ、様々なものが揃う小売業は存在しているのだ。

「あとでちょっと寄りましょうか。たまには何か見るのも面白いかもしれないし」

 美月の声に誘われ、公也がそちらを見ると、彼女は挑発的に唇の端を上げていた。気を使ってくれている、ということに恥ずかしさを覚えないまでも、申し訳なさに近いものは感じてしまう。

「街に行ったらコンビニなんてそこら辺にあるもんね。どうやって儲けてるんだろ」

「人がたくさんいればそれだけ商売の形も変わるものよ。さ、着いたわ」

 バスの重いブレーキ音が響いた。後ろに田を従えたバス停で、三人は料金を精算して降りた。

 三つ先のバス停は、大した距離ではないだろうと思っていた公也の想像は見事に裏切られた。ぽつぽつと家が点在している様は、いつもの村よりもやや町である印象を受ける。

 それでも都会に慣れ親しんだ人間からすれば充分な田舎町であることには変わりない。トラクターが元気に稼働している姿は、のどかを通り越えて異世界に迷い込んだ気にさえさせてくる。

 美月がアスファルトで舗装された道路を横切り、大きな未舗装の道へと歩き出した。香琴がさっとついていくのを見て、公也も遅れまいと後ろについた。

 この場所は平地なのだろう、建物に遮られていない限り遠くの方まで見渡せる。後ろにそびえる山を越えれば、自分の家に帰れるのだろうが、ここから歩いて帰ると、冗談抜きで一晩かかるのは想像に易い。

 しばらく歩き続けると、この田舎町には似つかわしくない綺麗なコンクリート製のビルに行き着いた。

 図書館のプレートがはめられているところからして、間違いなくここが今日の目的地である。案外田舎の方が予算の使い所がなくていわゆるハコモノに予算を宛がうというのは嘘ではなかったのだと、公也は得心していた。

 扉を開けると、空調の効いたロビーで数人ほどの人が雑誌を読みつつ、休んでいた。大都市の図書館ともなると、人の溜まり場になっていることも多いが、ここはそもそも来られるだけの人がいないらしい。

 横をちらりと見ると、自販機が設置してある。その巨体が懐かしく、公也は思わず安堵の息を漏らしていた。

 あとはここで資料を探すだけ、そう公也が言おうとした時、美月の足が突然止まった。

 彼女の目は真っ直ぐ前を見据えている。その視線をなぞっていくと、同じように向こうからも視線がこちらに投げられていた。

 不思議そうにこちらを見る目は、意外なことに三人の担任である鹿田葉月のものだった。

「お前ら、何やってんだ、こんなとこで」

 最初に話しかけてきたのは彼女の方だった。笑顔を浮かべて手を上げている向こうに、美月は口を曲げて無言で応えた。

「なんだ、市原、機嫌悪いな。椎木、勉強の方はかどってるか?」

「ええ、まあ。先生はどうしてここに?」

 公也が訊ねると、彼女はふっと鼻息を漏らして彼を眺めた。

「それはこっちの台詞だぞ、椎木。市原と筒野連れて何やってるんだぁ?」

「いや……それはその……」

「せんせ、田舎が好きじゃない割にこんなところにどうしてって、ハムくんじゃなくても思うわよ」

 冷めた口調で美月が横槍を入れると、彼女はぺろりと舌を出して、腕を組んだ。

「おめーら学生と違って、こっちは縛りプレイの社会人なんだよ。書類だのなんだの色々あるから、役場の方に出向かなきゃなんねえけど、時間が余ってるから、しゃーなしにここで時間潰ししてんだ」

 不満たっぷりの口調で、彼女は美月にむっと子供じみた視線を寄こした。それを見て美月は安心したように冷笑を浴びせた。

「せんせ、はしゃぎすぎで私達ちょっと迷惑になりそうだわ」

「うん、図書館でさわぐのはよくないと思います……」

「筒野まで私を悪者にするわけか、ったく。まあしばらく時間潰ししとくわ。さすがにコンビニで二時間は無理だからな」

 彼女はにこついたまま近くの文庫本の置いてある部屋に消えていった。

 公也は彼女が去ったのを見て、美月をちらりと覗き込んだ。美月もその視線に気付き、彼に向き合った。

「あのさ、先生に今回のこと言わなくて良かったの?」

「今回のことって」

「まあ、今日探してるあれのこと」

 公也が言葉を選びつつ呟くと、美月は慣れているのか、二階の方へ歩き出しながらぽそりと公也に返事した。

「せんせはせんせだもの。私達牟佐探検隊とは何の関係もないわ」

 彼女のドライな発言が驚きに値したのか、公也は口を噤む他なかった。

 凪沙がいたなら、先生も一緒にどうぞと言ったかもしれない、そう思うと胸がちくちくした。だが美月の秘密を共有するのは、あくまでこの仲間だという思いも理解できた。その背反する部分が、また公也の心を穏やかにはしてくれなかった。

「ハムくん、美月ちゃん意地悪で言ったんじゃないと思うよ」

「そこは分かってるよ。美月がそういう部分で性格悪いとか思ってないし」

「それにほら、もし宝が見つかった時に、先生がいたら先生がいたからってなると思うんだ。そういうのってやっぱりちょっと嫌だと思うし」

 公也は静かに頷いた。目の前の美月はそれに否定も肯定もしない。この推論が当たっているのかどうかは、彼女に問い質しても、教えてくれることはないだろう。

 短い階段を上がり、二階の資料室に三人は入った。

 ハコは立派ではあるが、資料に対する敬意はそれほどないのか、部屋の湿度や温度の管理はがっちりと行われてはいなかった。

 ここに禁帯出の本などが大量に置かれている。この点は美月に一日の長があるのだろう、特に慌てた様子もなく静かに本の背を見つめだした。

 ふと辺りの本の背表紙を見ると、村の歴史が書かれた分厚い辞書のような本が、何巻ものセットになって置かれている。これを見れば、確かに平家と村の因縁も見えてきそうではある。

 静かな資料室に、三人の足音と小さな息がすっと溶けていく。保存性を考えて日射しが差さないようにしているのは分かるが、その閉鎖性は真っ昼間であっても一人でいるのは嫌悪感を覚えるだろう。

「なんか見つかった?」

 沈黙に耐えきれず、公也が思わず探している最中だというのに口を開いてしまった。

 美月はちらりと彼を見て、屈んだまま数度頷いた。

「とりあえず村の地図はこれね」

 彼女はずっしりとした大判の本に指をかけ、ゆっくりと手にした。彼女が華奢なこともあり、少し突けばバランスを崩して倒れるのではないかと思えた。

 彼女はそれをしっかりと両腕で抱えて、近くにあった閲覧用のテーブルにそっと乗せ、ページを開いた。

 一般的な書籍ではなく、依頼して作られた本なのか、二十年ほど前の航空写真がまず最初の方のページに載っていた。まだ以前はそれなりに人がいたのか、今日見た感じよりもこの近辺は家が建っているような雰囲気はするが、公也の住んでいる地域は今と変わらず過疎状態だった。

 香琴が横から覗く中、美月がぱらりとページをめくった。航空写真から一転、緻密なタッチで描かれた地図が記載されている。頭には二千年前と記されており、今とはかなり地形に違いがある。

 そうして順にページを開いていくと、おおまかな年代ごとの地図が姿を表した。海抜が現在と変わっていて、この村全体が遙か昔は海に飲まれていたことがおおまかに伺える。

 美月はさっと目を通しながら、遂に源平合戦のあった頃の地図を広げた。そこで彼女は得心したように大きな息をついていた。

 三方の鬼に準ずる、彼らが目星をつけた地形は変わっていないが、その上陸できる部分を示す色が変色していた。今なら緩やかな丘に連なる森になっている場所が、かつては海に面した崖であったということだ。

 そしてそこから導き出される三方の崖もまた、先日探した場所ではなく、一歩引いた地点を見なければならない。探索は完全に振り出しに戻ったのである。

「はあ、これは困ったわね」

 美月が地図を前に思わずぼやいた。地図とにらめっこしていても愚痴の一つもこぼさない彼女が、弱音に似た言葉を呟いたのに驚き、公也と香琴がくっと身を乗り出した。

「丘に出たなら、まだある程度作業ができるけど、森の中だと結構迷うわね」

「地面を掘るにしても、根っことか引っかかるしね……」

 香琴と美月が同時に溜息をついたのを見て、公也は肩を上下に動かした。

「美月、凪沙より先に諦めんの」

「……ハムくん、そういうこと言う強気な性格だったわけ」

「そういうのって、嫌だったりする?」

「むしろきゅっと来る。諦めるかどうかはともかく、凪沙より先に折れるのはだめね」

 彼女の微苦笑に、公也は照れくささを隠せず横を向いた。その二人の和やかな空気に、思わず香琴も微笑んでいた。

「ねえ、美月ちゃん、宝って近付いたのかな?」

「さあ……そればっかりは見つからないと分からないでしょ」

「見つけるんだろ?」

「そうね、見つかるといいわね」

 美月はそっと返事をして、本を棚にしまうため立ちあがった。

 公也がふと香琴を見ると、彼女もまた、その視線を美月の背にやっている。

 宝捜しという夢のような話がいつまで続くのか、それは分からなかったが、公也は香琴達の時折見せる幸せそうな姿が、少しずつ愛おしくなっていた。

「なんか時間かかるかと思ってたけど、もう見つかったな」

「そうみたいだね。なんか拍子抜けするなあ」

 香琴と公也が好き勝手な発言を繰り返していると、後ろから美月が先程までの穏やかな顔とは打って変わった、目を三角にした形相で飛んできた。

「凪沙も含めて君たち探検隊のメンバーは、最大限の効率を生かそうという私の努力が理解できないのかな?」

「い、いや……まさかそんな下調べしているとは思ってなかったです、済みません」

「分かればいいのよ。それに、こうだろうっていう目星がついても、実際に新しい手掛かりが見つかるかどうかは別だしね」

 と、今度は美月がやり返すように公也を挑発するように笑ってきた。彼女の気の強さは、困った部分でもあり、興味を引かれるのもまた事実だ。

 彼女の気持ちがどうこうというよりも、これから先凪沙と美月の二人にぐるぐると引っ張られるのは火を見るよりも明らかで、公也は思わず天を仰いでしまった。

 問題はせっかくここまで来て、もう作業が完遂してしまったことである。何をやるとも決めていなかった公也にとって、これは不意打ちに近い出来事だった。

「香琴、ここの図書館って面白いの?」

「うーん……普通、かな」

 指を唇に宛て考え込んだ香琴に、公也は何度か頷いた。図書館が必要以上に面白い場所であるはずもないし、そうであってはならないのもまた世の摂理である。

 本を返す美月を見ると、こちらもプランがないのか、困ったように口を噤んでいる。

「美月ちゃん、先生まだ下にいるよね」

「ダメよ、せんせだって仕事があるんだから」

「公私混同は避けるべき、だよな……どういう事情があっても」

「そう」

 美月と公也に押し切られ、香琴はしょぼんと肩をすぼめた。

 ただそうなるとここですることがないのも、厳然たる事実である。公也が美月をちらりと見ると、美月は下から公也の額をぴんと人差し指で軽く突いて、香琴に微笑んだ。

「この調子なら昼のバスには間に合うだろうし、コンビニに行った後そこらうろつきましょう」

 美月の提案を受け入れるように、香琴は嬉しそうに「うん」と返事をして頷いた。

 公也は美月に指を当てられた額を撫でながら、小難しい顔で彼女を凝視した。

「何だ、これ」

「ハムくん、意味分からない?」

「全然」

「バカってこと」

 彼女は鼻で笑って、階段の方へ行ってしまった。

 バカは生まれてこの方変わっていないが、美月に今更言われるようなことでもなく、そして美月に指摘されるようなことでもない。

 結局彼女が何を言いたいのか解することが出来ずに、公也は進み出す香琴のあとをつくように、ゆっくりと歩き出した。

実は色んなギミックを仕込んでいます。

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