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外伝その3 トゥルクさんの腕前 後編

8月10日に「勇者に幼馴染を奪われた少年の無双剣神譚」が発売されました!


挿絵(By みてみん)


まだご購入でない方は、これを機会にぜひお買い求めください!



今回の作品は書籍版を意識した作りになっています。


なので師匠のトガも出てきております

「では、ワシが最初の一声を掛けるとしよう」

 

 師匠が僕とトゥルクさんの間に入る。

 トゥルクさんは音もなく後ろに下がると、木々へと隠れてしまった。


「弓使いは接近されるとまずいからのう。まずは距離を取らせてからじゃ」


 そして、しばらくしたところで師匠のかけ声が入る。


「行くぞムミョウ! トゥルク! 勝負、始めぇ!」


 師匠が離れると同時に、矢が一本僕をめがけて飛んでくる。

 眉間を狙ってきた矢を切り落とし、次の矢を待つ。

 目の力は発動させているけれど、トゥルクさんの気配は感じない。


「僕の力が及ばない、かなり離れたところにいるのか」

 

 それなのに、あの正確さ。

 強い相手との勝負に、思わず身体が震えてしまう。


「楽しくなってきたあ!」

 

 こらえきれず声を出してしまう。

 するとそれを戒めるがごとく、次の矢が。


「おっと!」

 

 飛んできた矢を難なく切り払う。

 いけないいけない……森の中では不用意な音は出しちゃいけないって、以前トゥルクさんに教わったんだった。


「それにしても、どうやったらトゥルクさんに勝てるか」


 初めて戦う弓との対応策を考えてみる。


「やっぱり、距離を取らせないよう一気に近づくしかないよね。そうなるとまずやることはトゥルクさんを見つけること」

 

 それしかないかな?


「このままじっと待っていてもダメだ」


 そう考えた僕は、とりあえず森の中を走り回ることにした。

 

 あっちこっち動いて、トゥルクさんに狙いを絞らせないように気を配る。

 その試みは概ね成功したのか、散発的に矢が飛んでくるものの、回避や切り払いは難しくはない。

「全方位に注意して、少しでも気配が見えたら一気に近づくぞ」


 息を整え、全速力で走り出せる準備は怠らない。


「見えた!」


 一瞬だけど、気配の白い線が右奥の木の上から流れたのを見逃さない。

 

「今だ!」


 僕はその方角に向けて足を踏み込み、トゥルクさんとの距離を縮めようと駆け出す。


「来た!」


 案の定僕の足を止めようと、矢が放たれてくる。

 これなら――!


 そう思って飛んできた矢を切り払った瞬間!


「なっ!?」


 防いだ矢の後ろに、まるでくっついてきたかのような距離で、もう一本の矢が僕に迫ってきていた。


「くっ!」


 どうにか顔をそらしてかわすことが出来たものの、体勢を崩して足を止めてしまい、見えていた気配も消えてしまった。


「さすがだトゥルクさん……あんなことが出来るなんて」


 正直感心するしかない。

 攻撃の瞬間が分かる白い点も、二つ重なってしまえばさすがの僕も見分けるのは難しい。

 改めてトゥルクさんの、そしてゴブリン族の強さを思い知らされた。


「さあ、仕切り直しだ」


 乱れた呼吸を整え、もう一度集中して気配を探る。


「深く……深く……」


 目を閉じて、沈み込むように。

 すると真っ黒な視界の中に、白い線がうっすらと浮かび上がってくる。

 それらはいくつもの道筋を描きながら、一つの方角を指し示す。


「今度こそ……!」


 白い線の導くところへ、僕は走り出す。

 途中何本も矢が迫るが冷静に切り落とし、さきほど放ってきた、連続した矢も回避してどんどんとトゥルクさんへと迫る。


「サスガハトガノ弟子、ムミョウ君ダ」

 

 トゥルクさんの声が聞こえた。

 僕は目を見開き、一気に足に力を入れてトゥルクさんのいる木の枝へと飛び上がった!


「ここだぁ!」


「クッ!」


 剣を振り下ろした瞬間、キィンという甲高い音とともに、僕の一撃は防がれた。


「ムミョウ、お前の勝ちじゃ」


 いつの間にか師匠が僕とトゥルクさんの間に割り込み、僕の剣を防いでいた。

 二人で地面に降り立ち、トゥルクさんもそれに続いて木から飛び降りた。


「負ケタヨ、完敗ダ」


 トゥルクさんがにこやかに笑いながら手を差し出してくる。


「すみません……ちょっと気合いが乗りすぎて、危うくトゥルクさんにケガを負わせそうに……」


「ナニ、気ニスルコトハナイ。私モカナリ力ヲ出シテシマッタカラナ。オ互イサマダ」


 僕は申し訳そうにしながらも、トゥルクさんと握手を交わした。


「ソレニシテモトガ、ヨクゾココマデト言ウベキカ。私ノ弓ヲ掻イ潜ッテアソコマデ迫ルトハ……」


「じゃろう? ワシ自慢の弟子じゃぞ」


 トゥルクさんの称賛の言葉に、師匠が自慢げに胸を反らせた。


「トゥルクにも、ムミョウにもいい経験となったじゃろう。さて、良い時間でもあるし、今日はここまでにしてはやく帰ってトゥーラのご飯を食べるぞい! もうお腹が減って死にそうじゃ!」


「師匠……ぷっ」


「ククッ、ヤメテクレトガ。疲レタ身体ニ響ク」


 駄々っ子みたいに身体をくねらせる師匠。

 その光景を見て、思わず僕とトゥルクさんは笑いを吹き出してしまった 


 こうして僕たちは今日の稽古を終え、集落へと戻っていった。

 一日ごとにフォスターでは得られなかった経験を積み、少しずつ僕は成長していく。

 これの積み重ねで……誰よりも強くなる、なってみせる!

 そしていつか、またティアナに会えたら……。

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『一撃必殺と絶対無敵が手を組んだら、世界最強のコンビが誕生しました』https://book1.adouzi.eu.org/n0107ga/ 

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