外伝 トゥルクさんの腕前
いよいよ今日8月10日に「勇者に幼馴染を奪われた少年の無双剣神譚」が発売されます!
ぜひ皆さんお買い求めください!
今回の作品は書籍版を意識した作りになっています。
なので師匠のトガも出てきております
風がたなびき、木の葉擦れ合う音が響く森の中。
僕は愛用の剣を構え、静かにたたずんでいる。
スゥ――……ハァ――……。
呼吸を一定間隔に、心を落ち着けて目の前にいる相手からの気を受け流す。
「ふっ、ムミョウよ。仕掛けてこぬのか? 怖じ気づいたのか?」
軽い口調で僕を挑発してくるのは師匠のトガ。
刀を構えながら笑みも浮かべ、余裕たっぷりの表情。
けれど、僕に対して数々の気を見せつけ、どの太刀筋で攻めてくるのか分からないようにしてくる。
「ほれほれ、さっさとかかってこんかい!」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ? 師匠」
「ほう……言うようになったな……ならば!」
言葉も言い終わらぬうちに、師匠の姿が消えたかと思うと一瞬のうちに僕の懐へ入り込む。
「さすが師匠! 速さは年を取っても衰えませんね!」
「言っとけ!」
そして地面を這うような切り上げが僕を襲う。
これは下手に受けると剣を跳ね上げられる!
そう思って回避を選択し、切っ先が当たる寸前で後ろに飛びのく。
さっきは冗談のつもりで言っただけではない。 師匠の速さは僕が出会ってからずっと変わることなく、むしろどんどん速くなっているのではと思っているくらいだ。
「逃がさぬ!」
師匠は勢いそのままに、さらに足を踏み込んで迫ってくる。
僕の目には右から左へ流れる白い線が見えた。
ここは――回避を選択してもどんどん追い込まれるだけ!
ならばと足を止め、逆に踏み込んで師匠へと一気に迫る。
「むっ!」
さっきの横に流れる白い線は、僕の胸をめがけた一点に変わり、師匠の刀も水平に向けられるのが一瞬見えた。
「はっ!」
そして放たれた師匠の突き。
僕はギリギリでかわせるように少しだけ身体を右に傾け、両腕も上げると、風を巻き込むような速さで刀が通り抜ける。
僕は素早く剣を振り下ろして刀の背中を剣で抑えつけるとともに、身体を師匠にぶつけて勢いを止める。
「ふんっ!」
「ぬうぅ……」
先ほどまでの素早い攻防から一転、足を止めた状態からのせめぎ合い。
師匠を止めている身体や両足も、刀を抑えている両手も、一瞬でも気を抜けばあっという間に体勢を崩されてしまう。
「くうぅ……師匠の力もまだまだすごいや……」
「ふふふ……じゃがお主も出会ったころよりは遙かに力を増しておる。なかなか良く育ったものじゃ」
張り詰めたような緊張がしばらく続き、そろそろ動き出そうかと思った瞬間。
「よーし! 今日の立ち会いはここまで!」
「えええぇぇぇ!?」
突然師匠が力を抜いて、側から離れる。
いきなりのことで前につんのめって転びそうになり、ポカンとしてしまう僕。
「ふう、いい汗かいたわい」
先ほどまでの気迫がみじんも感じられないほど、穏やかな口調。
持ってきた布で汗を拭きながらしみじみとつぶやく。
「くそう……今日こそは勝つぞって気合い入れてたのに……」
「ふっふっふ……まだまだじゃのう。じゃがあそこで逃げに徹さず、逆に踏み込んできたのは正解じゃ。相手に主導権を握られ続けるほどまずい勝負というのもないからのう」
近づく僕に対して、師匠は軽い評価を述べてくれた。
「ふう、よいしょっと」
師匠の横に座り、手渡してもらった別の布で顔や胸の汗を拭く。
「順調に強くなってきておるのうムミョウ。ワシも嬉しいわい」
「師匠の指導のたまものです」
「そう言ってくれるのはありがたいが……まだまだお主に負ける気はないぞ?」
僕のお世辞に気をよくしたのか、師匠が自慢げな顔だ。
「あっもしかして師匠。さっきいきなり立ち会いを終えたのっって、僕に負けると思って……」
「何か言ったか?」
「いいえー? 何もー?」
僕のギロリと睨みを利かせてくる師匠。
誤魔化すように、僕は空を見ながら口笛を吹く真似をした。
「精ガ出ルナ、二人トモ」
持ってきた水を二人で分け合って飲んでいると、トゥルクさんが弓を持って僕たちの近くまで来ていた。
「おう、トゥルク。今から森の巡回か?」
「イヤ、今日ハ弓ノ訓練ダ。シッカリ腕ヲ磨イテオカネバ、長トシテ恥ズカシイカラナ」
そう言ってトゥルクさんが見せてくれた矢には矢じりがなく、代わりに布の切れ端が巻き付かれていた。
「近クノ木ニ的ヲククリツケテアル。ソコデヤルツモリダ」
そういえば、ゴブリン族って弓の名手なんだっけ?
師匠はチラリと僕の方を見ると、トゥルクさんの方を向き、ひげを撫でた。
「ふむ……ならばワシらもトゥルクの弓の腕前を見に行ってもいいかのう?」
「構ワンガ……面白イモノデモナイゾ?」
トゥルクさんが謙遜したけれど、僕は首を振った。
「いえ、一度トゥルクさんの腕前をしっかり見たいと思ってました。僕からも是非お願いします」
僕が頭を下げると、トゥルクさんは頷いて僕たちを先導する。
「分カッタ。ジャアコッチダ」
トゥルクさんの腕前、じっくり見させてもらうぞ!
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