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第四章 61話 再びゴブリン族の集落へ

「ふう…これで4匹目……」


 レイが一息つきながら血の付いた刀を布で拭く。

 森の中で僕に襲いかかってきたオークの首を、ついさっき跳ね飛ばしたところだ。


「……やっぱりフィンさんの言っていたウワサは本当なのかな」


「かもしれないね……師匠」


 フッケを出発してそろそろ一週間。

 もうすぐトゥルクさんの集落のはずなんだけど……。


 森の中を進んでいると、モンスターと遭遇する回数が以前より増えているように感じ、あのウワサ話が本当のように思えてくる。

 ファングウルフやワイルドボアなんかはもちろん、オークの姿をこうやって何度も見ることがあった。


「まぁ……ウワサが本当なら、レイの修行に役立つね」


「うへえ……ゴブリンさんの集落へ遊びに行くだけだと思ってたのに……」


「どんな時も甘やかさない、師匠の優しい心だよ?」


「厳しいの間違いじゃ……?」


「ん? 何か……言ったかい?」


「なにも……うぅ……」


 若干泣き声のレイを促し、おろした荷物を再度拾って僕たちは再び走り出す。


 森の中での戦闘なら実戦的、レイの腕を磨くにはもってこいだ。

 僕にとっては肩慣らし程度の相手なので、基本、モンスターが出てきたらレイに任せ僕は道案内に徹する。


 それからちょくちょくモンスターは出るものの、依然と比べて強くなったレイは危なげなく倒す。 

 森の中を進み、昼前にはゴブリンさんたちの集落へと到着できた。


「着いた着いたっと」


 視界の向こうに集落を守る懐かしい門と壁が見えてくる。


「みんなは……元気かな?」


 門に近づくと、上からゴブリンさんの声が。


「オオ! ムミョウクンカ! 今開ケルゾ!」


 重い音を立てながら門が開き、僕が中に入ると同時に再び閉まっていく。


「オカエリ、ムミョウクン。元気ニシテタカイ?」


「ムミョウオ兄チャンオカエリ!」


 ゴブリンのみなさんが一斉に僕へと駆け寄ってくる。


「皆さん、お久しぶりです。元気すぎて困ってるくらいですよ」


「ソウカ、ソレナラ良カッタ」


「オヤ? コノ子ハ誰ダイ?」


「ああ、僕の弟子のレイです。ほら、挨拶しないと」


「あっ! すっすみません。 師匠の弟子になりましたレイです! よろしくお願いします!」


 初めて見るゴブリンさんに興味津々で、あっちこっち目移りしていたレイ。

 僕に促されて慌ててあいさつをする。


「ハッハッハ、今マデトガサンノ弟子ダッタムミョウ君ニネエ……月日ガ経ツノハ早イモノダ。サゾカシ見込ミガアル子ナンダロウナ」


「えへへ……それほどでも……」


 このままみなさんと話に花を咲かせたいところだけど……。


「せっかく集まってくれたのに申し訳ありません……ここに戻ってきたのにはちょっと理由がありまして……また急いでフッケに帰らないといけないんです。トゥルクさんはどこにいらっしゃいますか?」


「トゥルクナラ、今ハ家ニイルゾ」


 一人がそう言って奥の家を指さしてくれたので、僕たちはお礼を言って皆さんから離れた。

 そして通りを歩いて家に着き、扉を叩いて中へと入るとトゥルクさんとトゥーラさんが快く僕たちを出迎えてくれた。


「オカエリ、ムミョウ君」


「オカエリナサイ」


「ただいまです。いきなり帰ってきてすみません……」


「気ニスルナ、無事ナ顔ヲ見セテクレレバ私タチモ嬉シイ。トコロデ横ニイル子供ハ誰ダイ?」


「他の皆さんには説明しましたけど、僕の弟子のレイです」


「こっこんにちは!」


「元気ノイイ子ダ。ヨロシク」


「チョウドヨカッタワ、今食事ガ出来タ所ダッタカラ一緒ニ用意ヲシテアゲルワ。ソチラノ可愛イオ弟子サンニモネ」


 トゥーラさんはそう言って台所へと入っていった。


「ゴブリンさんの食事どんなんだろう……」

 

 レイはさっきから興奮しっぱなしでせわしなく頭を動かしている。


「久シブリニ帰ッテキタンダ、今日ハココニ泊ッテイクノカイ?」


「いえ……実は……」


 本当は泊まっていきたいけれど、その時間はあまりない。

 僕は今後の予定を話し、ここに来た理由である、ティアナがお礼を言いたがっていた事を伝え、加えてポーションの融通を頼んでみた。


「ソウイウコトナラ気ニセズ持ッテイッテクレ」


 トゥルクさんは奥の部屋に引っ込むと、ポーションの入った布袋を手に持って食堂に戻って来る。


「ありがとうございます、トゥルクさん」


「礼ハイイ。私ノ作ッタポーションガ役ニ立ツナラ幸イダ」


 トゥルクさんからポーションを受け取る。


「ムミョウ君、レイ君、サアドウゾ」


「ありがとうございます」


「いただきます!」


 いつの間にかトゥーラさんがスープやパンなどをテーブルの上に並べて置いてくれていた。 

 久しぶりのトゥーラさんの手料理だ。

 お礼を言いつつ僕たちは食べ始める。


「そうそう、トゥルクさん。フッケにいる知り合いから聞いた話なんですが」


 パンをちぎりながら、僕はフィンさんから聞いたウワサをトゥルクさんにも話してみることにした。

 ゴブリンさんたちは森の中に住んでいるんだし、僕よりももっと状況が分かっているかもしれない。


「――! ……ソウカ」


 僕の話にトゥルクさんは予想以上に驚きを見せ、険しい顔をのぞかせた。

 なんだろう……変だなあ。


「トゥルクさん、何かご存じなのですか?」


 不思議に思って尋ねてみるけれど、トゥルクさんの顔は険しいまま。


「ムウ……マサカ……イヤ、ソンナ馬鹿ナ……」


「トゥルク……さん?」


「アア、スマナカッタムミョウ。何デモナイ」


 取り繕うようなトゥルクさんの慌てた声。

 うーん……やっぱりゴブリン族の長なんだし、モンスターたちに備えてここの防衛とかを考えてるのかなあ?


 それからは食事をしつつ近況やレイのことをお二人に話し、短いながらも話に花を咲かせる。

 けれど、時間はあっという間。

 そろそろフッケに帰らないとね。


「トゥーラさん、久しぶりの手料理美味しかったです。それじゃあまたフッケに戻りますね」


「フフッ、戻ッテキタラマタ用意シテオクワネ」


「はい! また手料理を食べるために、向こうでも頑張りますよ!」


「無理シナイデネ、ムミョウ君」


「ソロソロ行クノカイ?」


「そうですね……名残惜しいですけど」


 僕とレイは椅子を引き立ち上がる。

 トゥルクさんも立ち上がって僕の前へ。


「無理……スルンジャナイゾ」


「ありがとうございます」


 トゥルクさんとグッと握手をした後、僕はもう一つの目的のために外へ出る。

 通りを歩き、門の近くに生えた木のそば。


「師匠……お久しぶりです……」


 以前見た時と変わらない、キレイに整えられた師匠のお墓。

 ゴブリンさんたちがちゃんと手入れをしてくれているのだろう。


 僕はその前でしゃがみこみ、静かに目を閉じた。


作品を閲覧いただきありがとうございます。


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