第四章 58話 二人の想い
ジョージさんは急いでギルドの中へと入っていく。
「一体なんなんだろう……?」
「さあ……?」
三人でしばらく待っていると、ジョージさんがなにかを抱えて急いで戻ってきた。
「これなんかどうだい?」
そう言って差し出してきたのは白色のローブ。
模様や飾りもなく、至って普通の作りだが、ジョージさんが指さすところをよく見ると、袖の辺りに小さく冒険者ギルドの紋章の刺繍が入っていた。
「これは?」
ティアナがたずねる。
「これは特別なギルド職員に配られる制服さ」
「特別な……?」
「職員にも色々あってね、顔を見せずに調査をする人もいるんだ」
「……?」
ちょっと要領を得ないせいで、僕は頭をひねる。
「そうだね……例えば他のギルドで不審な動きがあったり、冒険者の中で不正を働いている可能性があるとされた場合、秘密裏にそれを調査して報告する役職の職員がいるんだ。その場合、顔を明らかにするわけにはいかないので、こういったものを使うのさ」
「へえ……」
ジョージさんから手渡されたローブを広げてみる。
ティアナが着ているローブよりもやや長めで、フードも深く作られており、被れば頭はすっぽり隠せそうだ。
「ティアナさんは炎の賢者として名高いから、こういう色違いのローブを着るだけでも十分姿を隠せると思うし、このローブを着て各国のギルドへ行って協力を頼めばきっと助けてくれるはずさ。ギルドはちゃんと事情は把握してるから、私としてはこれが一番だと思うんだけど……」
「うーん……」
ちらっとジョージさんの顔を見てみる。
ゴツゴツした身体に似合わないニコニコ顔。
なーんか裏がありそう……。
このままなし崩しにギルドの職員にしようとか考えてたりして……?
「ティアナはどう?」
ジョージさんをいぶかしみながらも、僕はティアナにローブを手渡す。
ティアナは渡されたローブをひとしきり眺めた後、自分のローブの上から渡されたローブを軽く羽織った。
「うん……着心地は悪くないわ。ちょっと私には大きめだけど」
確かに……袖が長すぎて指の先しか出てないから、まるで子供が大人の服を着てるみたいだ。
「ふふっ」
思わず笑ってしまった。
「ちょっとムミョウ? 笑うことはないんじゃない?」
袖をプラプラさせながら、ティアナが頬を膨らませる。
「ごめんごめん」
「もう……でも、これがあればムミョウと一緒に居られるわ」
ニッコリと眩しいくらいの笑顔を向けてきた。
気に掛かっていた事もどうにかなりそうなら……僕としてはもう断る理由はない。
「ジョージさん、依頼の件は喜んで受けさせて頂きます」
僕の言葉にジョージさんもほっと胸をなで下ろす。
「よかった……割と本部からせっつかれていたから、受けてくれるかどうかハラハラしっぱなしだったよ……」
「ははは……」
ギルドで働くってのも大変そうだな……。
「それでいつから僕たちは出発すれば良いですかね?」
「出来れば今すぐにでも、と言いたいところだけど準備やらなにやら色々必要だろう。まずは復興のためにもブロッケン連合国の鍛錬場へ向かってもらうとして、本部や向こうのギルドと連絡を取り合いたいから……大体二週間くらいは見てもらえば良いかな。あっティアナさんに合うローブは必ず用意するからね」
二週間か……。
「獅子の咆哮」のみなさんやロイドさんの集落に挨拶したり、屋敷を整理するとしても割と時間はあるからゆっくり出来そうかな。
「分かりました。ではしっかり準備をしておきますね」
「ああ、よろしく頼む。何か新しい情報や連絡などがあったら随時知らせてあげるよ」
「よろしくお願いします」
その後ジョージさんはギルドへと戻り、僕たちも稽古を切り上げ屋敷へと戻ることにした。
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「またあそこに行くのかあ……」
軽い昼食の最中、レイはちょっと苦い顔を見せる。
「ああ、そうか。レイたちは向こうで貴族の領地から逃げてたんだっけ……」
「うん……でも住んでたのは向こうの国の端っこの方だったから、今度行く鍛錬場のある街には一回も行ったことないけどね」
「なんていう街だっけ?」
「ライノっていうところよ。フッケほどじゃないけど結構大きい街だったわ」
僕の疑問にティアナがスラリと答えてくれた。
そういえば向こうの鍛錬場にも挑戦してたんだっけな。
「あそこの領主様は色々助けてくれて良い人だったの……出来ればもう一度お会いしてお礼を言っておきたいわね……」
「じゃあ、向こうに着いたらギルドで話を通してもらうようにしようか」
「そうね、そうしてもらえると私も嬉しいわ」
「師匠、向こうに行ったら僕はどうすれば良い?」
今度はレイが質問してくる。
「そうだな……僕の手伝いでもいいけど、もう一度鍛錬場に入って今度は一人で行けるとこまでやってみるってのもいいかもね」
「うっ……大丈夫かな……?」
「レイなら……案外いいとこまでいくんじゃない?」
突然、今まで静かだったミュールがボソっとつぶやいた。
「そっそう?」
こういう時はミュールのキツい一言が飛んでくるはずなのに、打って変わって褒め言葉を聞かされ、レイはちょっと驚いた表情。
「僕一人でも……四十階層いけるかな?」
「まぁ……どうせレイのことだし危なくなったら泣き出して逃げるに決まってるわよ」
冷や水を浴びせるような一言。
「もう! ミュール!」
頬を膨らませて怒るレイを見ながら軽く笑うミュール。
けれど、僕はその時の顔に若干の寂しさが混じっているのを見逃さなかった。
ああ、そうか……ミュールにはここに残ってもらうつもりだったから、僕たちが行ってしまったらレイとはしばらく会えなくなるもんな。
納得してくれていると思って何も言わなかったけれど……。
「ティアナ……ちょっといいかい?」
「どうしたの? ムミョウ」
ワイワイと口ゲンカの始まった二人を尻目に、僕は隣の席のティアナに顔を近づけそっと耳打ちをする。
しばらく会えなくなる前に、どうにか二人にはお互いの想いを吐きだしてもらいたい。
僕の話を聞いてくれたティアナも同じ思いだったようで、何も言わずにゆっくりと頷いてくれた。
「レイ、ちょっといいかな?」
「なんです? 師匠」
それから食事も終わり、ミュールが先に食堂を出たのを確認してから、僕はレイを呼び止めることにした。
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