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わたくし、恋愛結婚がしたいんです。  作者: 青柳朔
第二部

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エピローグ

 すっかり秋めかしくなり、木々は赤く色づき始めた。頬を撫でる風は冷たくなり、朝晩はぐっと冷え込む日も増えている。あと一ヶ月もしないうちにこのアイゼンシュタット王国にも雪が降り始めるかもしれない。

 エミーリアは育児院にやってきていた。頻繁には来れないものの、読み聞かせにはできるだけ積極的に参加するようにしている。


「……あなた暇なの?」

「暇なわけないでしょーが」


 デリアとヘンリックは育児院でよく顔を合わせているようだ。デリアの嫌味にヘンリックは笑って答え、くしゃりとデリアの髪を撫でている。

 現状、彼らは婚約者でもなんでもない。婚約の予約、なんて妙な状態だ。

 ヘンリックは数少ない休日をデリアの予定に合わせて、育児院に足を運んでいるらしい。そうでもしないとなかなか会えないのだ。


 ――そうして、悪い魔法使いは聖なる騎士に打ち倒されました。

 高い高い塔の上に捕らわれていたお姫様は聖なる騎士によって助け出されたのです。


 エミーリアが「めでたしめでたし」と物語を締めくくる前に女の子たちはきゃあきゃあと楽しそうに笑っている。やはり『いばらの姫と聖銀の騎士』は人気らしい。

「騎士さまかっこいいよね!」

「いいなぁ、お姫さま」

 いつものように楽しそうに話し始める女の子たちを見ながらエミーリアは微笑んだ。そんなエミーリアの袖を控えめにくいくい、と引っ張る女の子が一人。

「なぁに?」

 どうしたの? とエミーリアが微笑みかけると、女の子はじぃっとエミーリアを見上げて口を開いた。

「ねぇ、あたしもお姫さまになれる?」

 その問いにエミーリアはぱちぱち、と瞬きをした。お姫さまになりたい、うらやましい、と賑わいでいる他の子と違って、この子はきっととても大人なのだ。

 自分たちはお姫さまにはなれないと、騎士さまは迎えに来ないとそう思っているから、エミーリアに「無理なのよ」と言ってほしいのかもしれない。

「そうね……絶対になれるわ、とは言えないけれど」

 でもね、とエミーリアは笑った。

 求めていた答えではないことに困惑する女の子の髪を撫でて、やさしい声で魔法を唱えるように続ける。

「わたくし、がんばってがんばって、自分の願いを全部叶えた素敵な騎士さまのことを知っているわ」

 にっこりとそう告げると、視界の端でヘンリックがなんとも言い難い顔をしているのが見えた。

「お姫さまなんてなれないって、そんなの無理だって諦めていた子も、その騎士さまにとってはたった一人のお姫さまだったわ」

 次にデリアが気まずそうな、そして照れくさそうな顔をしているのが見える。

「だから、絶対になれないなんてことはきっとないの。あなたが目指す先へ向かって少しずつでも歩き続ければ、今よりは確実に近づいていくのよ」

 いつの間にか、周りの子どもたちは皆エミーリアの言葉に耳を傾けていた。

「あなたたちの未来はまだ真っ白だから、これからどんな色にでもなれるわ。どんな未来が待っているのかしら? 綺麗なお嫁さんになるかもしれないし、すごい職人さんになるかも。もしかしたら、騎士さまになる子だっているかもしれないわ。とっても楽しみね」

 微笑みながらエミーリアは本を閉じる。周りの子どもたちを見回して、穏やかな声でお決まりの言葉を告げた。


「お姫さまと騎士はいつまでもしあわせに暮らしました――めでたしめでたし」


 それは幸福な未来を祈る、やさしい祝福の言葉だった。


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