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わたくし、恋愛結婚がしたいんです。  作者: 青柳朔
第二部

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19:デリア・リーグルの呟き

 ――やってしまった、と思った。


 デリアはひっそりとため息を吐き出した。

 結局、エミーリアと別れたあと合わせる顔もなくて夕食も部屋でとった。

 あんなの八つ当たりもいいところだ。エミーリアに当たり散らしていい理由なんてなかったはずなのに。彼女は純粋にこちらを心配して話してくれたのに。

 けれど、今のデリアにエミーリアは眩しすぎた。

 デリアが物語の挿絵にも出てこないような端役なのだとしたら、エミーリアは間違いなく主人公だ。愛し愛され、守られるお姫様。助けてと呼ばなくても騎士様や王子様が駆けつけてくれるような……そんな、絵に描いたような主役。


 妬んでいるわけじゃない。

 羨んでいるわけでもない。


 デリアはとっくに自分の役目を理解して納得しているし、自分のことを特別不幸だと思ったことはない。

 母には片親でも貧しくても立派に育ててもらえたし、その母が死んでも育児院の先生など手を差し伸べてくれる大人はいた。実の父親に引き取られてからも理不尽な扱いを受けたことはない。令嬢として必要な教養を身につけることができたし、他の家族と区別されたこともない。

 義母はときどき扱いに困るような顔をすることがあったけど、虐められたことはない。……愛されたことも、ないけれど。

 引き取られて、令嬢としての教育を受けて。

でも弟が生まれたときにデリアは悟った。ああ、私はもう必要ないんだな、と。

 育児院に戻されるだろうか。それならそれで、元に戻るだけだ。デリアはそれでも良かった。その方が今よりは気が楽になるな、とすら思っていた。

 でもデリアは伯爵家を追い出されるようなことはなかった。弟が生まれても変わらず、娘として育てられた。一度は引き取っておいて用済みだからと追い出すのは外聞が悪いからだろうか、とデリアは考えて、そして納得した。

 総合的に考えれば、自分は随分恵まれていると思う。オリヴァーについても、たとえ本命の恋人がいたとしても形だけの妻を蔑ろにしそうにもない好青年だ。きっとデリアがうまく立ち回ればすべて穏便に進めることができるだろう。


 デリアは何もかも納得している。不満もない。

 ただ、それではダメだと叫んだ人が二人いたというだけ。デリアが諦めたものを拾い上げて、諦めるな、諦めないでほしいと訴えてくる。

 その二人が、デリアにとっては無視できない、大事な人だったという、ただそれだけの話。


 私は別に、しあわせになんてなれなくていい。周りがしあわせであればそれでいい。大切な人たちがしあわせそうに笑っていてくれれば、それを見ていることができるなら、それだけで十分なのだ。

 ハッピーエンドにはならなくても、バッドエンドではない。満ち足りた人生でなくても、生きていくのに困るわけではない。

 デリア一人がしあわせにならなくても、世界は回る。誰も困らない。

 それなのにどうして――


「……放っておいてくれないの……」


 小さな呟きが部屋の中に響いて、消える。



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