気持ちのよい接客
川鍋正太郎はごく普通の自動車ディーラーである。毎日新車を磨き、毎日車の修理を承る、齢30の自動車ディーラーである。今日も今日とて、試乗者を送り出したあと全然戻ってこないのを心配してやっと帰ってきたと思ったら傷がついててほとほと困り果てた後、行きつけのコンビニでおまけ入りたまごチョコと味つきゆで卵を買って家路についていた―――のだが。
ギュウーギッ!ギギキーギュイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。川鍋正太郎の魂と、女神が対面している。
「川鍋正太郎さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
川鍋正太郎(30)
レベル22
称号:転生者
保有スキル:気持ちのよい接客
HP:21
MP:16
「というわけで、いきなり草原が目の前に?!急すぎるよ…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が自動車ディーラーの前に現れた!
「ややっ!スライムがでてきたっ?!こいつはいったいっ?!」
うろたえる、自動車ディーラー。
「そうだ!!保有スキル試してないな!気持ちのよい接客?!ちょっと、このスライムは…いやスライム様はお客様なの?!」
うばほん!!!
自動車ディーラーの前に商談テーブルが出てきたぞ!!
「お客様は、本日どのようなお車をご希望でしょうか…ただいまご用意できる車種がですね、こちらのパンフレットの五台なんですけれども…あ、お選びいただいている間にお飲み物お持ちします、メニューがこちらなんですけれどもどれになさいますか?」
スライムはオレンジジュースを指差した!
「ではお持ちいたしますね!ごゆっくりご覧下さい!」
自動車ディーラーはメニュー表を受け取って裏の厨房に行こうとしたが。
「ぎゃあああああああああああ!!!」
受け取ったメニュー表についていたスライムの体表の毒が手についてしまい、案の定絶命した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
自動車ディーラーは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
自動車ディーラーはコンビニでおまけ入りたまごチョコと味つきゆで卵を買って帰路に就いた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかってたらひかれてたんじゃないか…怖いなあ、明日納車あるのに。」
自動車ディーラーは、自分の車に名前をつけて可愛がるちょっとコアな客に微妙に引くこともあったものの、いつも笑顔で購入者の意向に沿うすばらしい接客が実を結び地域販売台数一位の栄誉を手にし、晴れ晴れとした顔で定年まで勤め上げて退職したのち、74歳でこの世を去ったということです。
マイカーはまさかの外車だったとのことです。




