アパート管理
尾本高志はごく普通の不動産屋である。毎日土地の査定に行き、毎日新築アパートのチェックを欠かさない、齢51の不動産屋である。今日も今日とて、事故物件の状況説明をした後、行きつけのコンビニで無料配布中の住宅情報誌をもらって家路についていた―――のだが。
ギュウッ!ギュイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。尾本高志の魂と、女神が対面している。
「尾本高志さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
尾本高志(51)
レベル26
称号:転生者
保有スキル:アパート管理
HP:41
MP:20
「というわけで、いきなり草原に放り出されたね、ひどいね、困るね、いやだね。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が不動産屋の前に現れた!
「うへっ!スライムが?!どういうこと、これ、どうするの。」
うろたえる、不動産屋。
「保有スキルを試してみたら助かるか?アパート管理…どのアパートなんだ。」
うばほん!!!
不動産屋の前に2階建て全四部屋ワンルームアパートが現れた!小さいけどバストイレ別、ロフト付きのいい物件だぞ!ちなみにペットも許可さえ取ればOKだ!
「こちら築浅でフローリングなんですよ、内覧してみます?まずは外から見てみましょうか。」
スライムは大喜びで不動産屋の後をついていった!日当たりもいいしベランダも大きい!ここに決めた!
「じゃあ次ぎ、中入りましょう…あ、水分はフローリング汚れちゃうんで、スリッパはいてください…。」
はあ?!もう借りるって決めてるんだからいいじゃん!!スライムは素足で部屋の中に入った!フローリングがびちゃびちゃだ!
「ああ、もう…ぎゃあああああああああああ!!!!」
スライムの汚した床を雑巾で拭き始めた不動産屋は、毒が回って絶命してしまった。スライムはしばらく喜んでアパートで暮らしていたが、安いフローリングはスライムの水分ではがれてしまって、ずいぶん見てくれが悪くなってしまったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
不動産屋は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
不動産屋はコンビニで無料配布中の住宅情報誌をもらって帰路に就いた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかってたらこのあたりは事故多発地域ってことになっちゃうとこだったよ、怖いなあ。」
不動産屋は、このところの事故物件ブームで物怖じしない入居者が増えたことを喜びつつ冷静に通常業務に励み続け、流通と管理においては市内一の信頼と実績を手に入れたものの過疎化の波がだんだんと押し寄せてきたため、シェアハウスに着手するようになった結果思いのほか反響が得られず、業務縮小することになったのですがその頃引退を考えていたこともあり、ちょうどよかったわと胸をなでおろした次の年に84歳でこの世を去ったと言うことです。




