おすすめのカクテル
広本明美はごく普通のバーテンダーである。毎日シェイカーを振り、毎日おしゃれな会話を楽しむ、齢28のバーテンダーである。今日も今日とて、ソルティドッグ用のマルガリータソルトを発注した後、行きつけのコンビニでスモークチーズとクラッカーを買って家路についていた―――のだが。
キイギュウ!!キイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。広本明美の魂と、女神が対面している。
「広本明美さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
広本明美(28)
レベル11
称号:転生者
保有スキル:おすすめのカクテル
HP:11
MP:18
「というわけで、いきなり草原に放り出されたけど、さあて、どうしますかねえ、ふーん。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がバーテンダーの前に現れた!
「おうふ!スライムだ?!この場合、逃げる?でも素早かったら命とりだぞ…。」
うろたえる、バーテンダー。
「そうだ、保有スキル使ってみよう…おすすめのカクテル…?」
うばほん!!!
バーテンダーの前に、いつも勤務しているバーのカウンターが現れた!
「どうぞ、お座りください…あなたにおススメなのは…ブルーパシフィック。舌に少しづつ乗せて、フルーティーな香りをお楽しみください。」
ぐびー!スライムはバーテンダーのおすすめの飲み方をガン無視して一気飲みした。
「では…スカイダイビング、こちら生ライムを絞ったのでいい香りですよ。ライムの香りと少しの苦みを舌の上で転がすように…」
ぐびー!スライムはバーテンダーのおすすめの飲み方を全部聞く前に一気飲みした。
「こちらはブルーマルガリータ…」
ぐびー!スライムはバーテンダーからグラスを奪い取り一気飲みした。
「お客さん!!もっとゆっくり味わったらどうなんです!!カクテルの逸話とかさあ、聞いてよ!!このブルーキュラソーはね…」
ぐびー!スライムはバーテンダーからブルーキュラソーの便を奪い取り一気飲みした!
うへへ!!スライムは完全に酔っぱらっている!!!酔っ払いはバーテンダーを丸のみした。次の日の朝、酷い二日酔いになったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
バーテンダーは時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
バーテンダーはコンビニでスモークチーズとクラッカーを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あとちょっと早く通りかかってたらひかれてたやつ?こわ、気を付けててもこればっかりはね…。」
バーテンダーは、小粋なトークと人を見てお出しするカクテルが非常に人気を呼び、モテモテになったもののなぜか縁遠く、そのストレスを発散するためお酒に酔っぱらうと普段のクールさが微塵もなくなって恥をさらしていましたが、バイトの年下の男の子とできちゃった婚をしてからはずいぶんおとなしくなり控えめなお酒を楽しみつつ78歳でこの世を去ったという事です。
なお、生涯で一番よく飲んだカクテルは、カルーアミルクだったとのことです。




