清めの塩
駒田康成はごく普通の葬儀屋である。毎日花屋に注文をし、毎日喪服を着こなす、齢42の葬儀屋である。今日も今日とて、ろうそくの発注の電話をかけた後、行きつけのコンビニでマグロたたき手巻き寿司とノンアルコールビールを買って帰路についていた―――のだが。
キイギギギュ!!ギュイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。駒田康成の魂と、女神が対面している。
「駒田康成さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
駒田康成(42)
レベル12
称号:転生者
保有スキル:清めの塩
HP:34
MP:10
「というわけで、いきなり草原に放り出されるとは…ここは、いったい…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が葬儀屋の前に現れた!
「っ?!スライム?!これはどう対処したらいいのかっ!!!」
うろたえる、葬儀屋。
「そうだ!保有スキルが使えるんでは?…清めの塩?こいつ、塩に弱いのか…?」
うばほん!!!
葬儀屋の手に、いつも香典返しの中に入ってる塩の小袋がいっぱい詰まった紙袋が出てきた!一つ小袋を破って塩を振りかける!じゅっ!スライムに2のダメージ!!
「く!!あんまり効いてないみたいだ…ああそうだ、これ袋ごと投げつけたらいいんじゃ?よーし!」
どっさどっさ!ばっさ!ばっさ!!
葬儀屋はスライムに小袋ごと塩を投げつけた!!ちょ!!!お前は清めの塩を袋ごとふりかけるんかい!!そんなん、効くか――――!!!まったくダメージを受けないスライムは、葬儀屋を頭から丸のみした。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
葬儀屋は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
葬儀屋はコンビニでマグロたたき手巻き寿司とノンアルコールビールを買って帰路についた。自宅近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あと少し早く通りかかってたら明日のエンディング産業展の進行がヤバかったかも…。」
葬儀屋は、真摯な態度でずいぶんたくさんの家族の大切な人とのお別れをサポートし続けたのち、自らの親を送り、伴侶を送り、友を送り、そろそろ自分も送られるのかと思っていた矢先に葬儀場が廃業を決めてしまい、98歳でこの世を旅立つ時には、なかなか葬儀場が見つからず孫が苦労したとのことです。




