君の瞳に、乾杯
大内正弘はごくロマンチストである。毎日彼女が感動するであろう言葉を考え抜き、毎日歯の浮くようなセリフ満載のポエムを発表する、齢23のロマンチストである。今日も今日とて、週末デートで行く夜景が綺麗なレストランの席を予約した後、行きつけのコンビニで味付け海苔とヤプルトを買って家路についていた―――のだが。
キュ―――キキ―――ッ!ギュギュギギキギュイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。大内正弘の魂と、女神が対面している。
「大内正弘さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
大内正弘(23)
レベル15
称号:転生者
保有スキル:君の瞳に、乾杯
HP:10
MP:2
「というわけで、いきなり草原に放り出されたよ…悲劇の、ヒーロー、ここに、見参?」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がロマンチストの前に現れた!
「スライム…ね。美しき、その透き通る水面!おお、まさに極上のしずくよ!!」
うろたえない、ロマンチスト。
「保有スキル…君の瞳に、乾杯?」
うばほん!!!
ロマンチストの前にバーカウンターが現れた!ロマンチストは、マティーニを片手に、スライムにウインクを飛ばした。ずっキューン!スライムは恋に落ちてしまった!
「ふふ、可愛いね。ソーダ水の妖精さん?いやスライムさんか。ねえ、君の瞳はどこにあるのかな?ああ、見つけないほうがいいか、…僕はきっと、君の瞳にとらわれてしまうからね。僕と一緒に、ここで夕焼けを見ないか。君の水色の頬がピンクに染まってゆく様子を、ぜひ見たいと思っているんだ。…いいね?」
もちろんですとも!スライムとロマンチストは、まったりもったり、バーカウンターで甘いひと時を過ごしていたのだが。
「え、ちょっと待って、何ここ、全然明かりがないじゃん!ちょ!!怖い!!暗いよ!!こわいよ!!おかあちゃ―――――――ん!!!」
ええー、なにこいつ。スライムはドン引きした!あんまり怖がってうるさいので、丸のみしてやったわ!!!
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
ロマンチストは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
ロマンチストはコンビニで味付け海苔とヤプルトを買って帰路に就いた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「怖いね…刹那の油断が、一生を終わらせるという、悲劇。僕はまだ、この世を離れるわけには行かない。愛する人を、手に入れていないから。」
ロマンチストは、通行人を盛大に巻き込んだサプライズプロポーズをしたものの撃沈し、その模様を実況されて一躍有名人になったわりにはそれだけで終わってしまい、ずいぶん痛い人として残念な人生を歩みつつも本人はたいそう幸せだったようですが、この世を去った際にはカリブ海に散骨して欲しいと遺言を残したにもかかわらず77歳でこの世を去ったあと普通に納骨されてしまったとのことです。




