ツアーガイド兼任
岩村真理はごく普通のツアーコンダクターである。毎日ツアーの日程を組み、毎日宿泊先にメニューの再確認を怠らない、齢29のツアーコンダクターである。今日も今日とて、さくらんぼ狩りが決行可能かどうか問い合わせをしたあと、行きつけのコンビニでぶるると爪磨きを買って帰路についていた―――のだが。
キイギギギュ―――ギギキュキュキイッ!!ギュイキイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。岩村真理の魂と、女神が対面している。
「岩村真理さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
岩村真理(29)
レベル10
称号:転生者
保有スキル:ツアーガイド兼任
HP:15
MP:10
「というわけで、いきなり草原に放り出す?!普通もっとさあ!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がツアーコンダクターの前に現れた!
「ひい!スライムっ?!ちょっと!身の安全!!どうなってるの!責任者!!!」
うろたえる、ツアーコンダクター。
「あ!保有スキル…ってちょっと?!ツアーガイド兼任?!ふざけんな!!ただでさえいつもガイドさんいなくてこっちは必死にやってんのに!!こんなとこに来てまで?!」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「クッソー!!こんなとこに来てまでブラックかい!!やったるわ!!…こちらに見えますのは、草原でございます。目の前にはりりしきスライム、こちら大変美しい色合いの体をしておりまして、一説には女神の涙で構築されているとも言われております。」
え、そうなの!しらんかった!スライムはびっくりしている!!
「このあとは、おいしいお食事をご用意しております。こちらまず野菜盛りをひとかご食べ終わってからお肉が食べ放題となっております。しゃぶしゃぶの食べ放題時間は30分でございます。おなかいっぱい食べて下さいね。」
うばほん!!!
スライムの前に国産牛しゃぶしゃぶ食べ放題セットが現れた!なべのお湯はまだ水だ!しかも結構でかい!さらに野菜盛りのかごがでかい!白いご飯と味噌汁もある!!お湯が沸くまでご飯と味噌汁と漬物を食べるか、もぐもぐ・・・。やっと沸いてきたなべに野菜を入れて、全部食べ終わった!よし牛肉を食べるぞー!
じりりりりりり!
「はい、30分です、お食事は終了です、お急ぎ下さい、次はゴーレム記念館鑑賞ですよ!!」
はあ?!まだ肉くっとらんやんけ!!スライムは怒り心頭でツアーコンダクターを頭から丸のみした。スライムは牛肉をどうしても食べたかったらしい。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
ツアーコンダクターは時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
ツアーコンダクターはコンビニでぶるると爪磨きを買って帰路についた。自宅近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あとちょっと早く通りかかってたら明日のツアー運転手がガイドしないといけなくなるとこだったじゃん!」
ツアーコンダクターは、昨今の人材不足でツアーガイドも兼任することが増えてしまいずいぶんストレスが溜まっていたのですが、自分が企画したお徳モリモリツアーが恐ろしく人気を呼んで所属旅行会社の目玉企画に選ばれてからは企画専属ガイドをゲットすることができ、自らもツアーを楽しみつつたくさんのお客さんを喜ばせた後70歳でこの世を去ったということです。
なお、参加した日帰りバスツアーは600回を越えたとのことです。




