発車いたしまーす
長谷敦彦はごく普通の車掌である。毎日電車に乗って駅の案内放送をし、毎日440円の社食を食べる、齢40の車掌である。今日も今日とて、最後の列車の乗務の後、行きつけのコンビニで靴の消臭スプレーと納豆巻きを買って家路についていた―――のだが。
ギュウギュキュギュキュ―――キキ―――ッ!ギュギュギュギュギギキギュイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。長谷敦彦の魂と、女神が対面している。
「長谷敦彦さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
長谷敦彦(40)
レベル31
称号:転生者
保有スキル:発車いたしまーす
HP:70
MP:8
「というわけで、いきなり草原に放り出されました、緊急事態発生ですね。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が車掌の前に現れた!
「おっと!スライムが出現?!これは…さらなる緊急事態です!!」
うろたえる、車掌。
「…保有スキルを試してなかったですね、発車いたしまーす?」
うばほん!!!
車掌の前に、一両編成の電車が現れた!これはワンマン電車だ!!運転手も乗ってるぞ!!誰だこいつは!!作者も知らん!!
「それでは出発いたしまーす、ご乗車の方はお急ぎください!」
スライムは電車に乗り込んだ!ずいぶん乗り心地がいいぞ!!スライムは靴を脱いで座席の上に座って窓の外の景色を見ている!行儀いいな!!
「次の停車駅は草原中ほどー、草原中ほど―!」
おわ!!草原中ほど駅に、めっちゃ乗客が待っている!!これはまずい!!電車が到着し、車掌はいったん電車を降りてお客さんたちを外から押し込め始めた。
「申し訳ございません!!中の方までお詰め下さい!まだ少し空間がございます!譲り合ってお進みくださいませ!!」
押し込めすぎて、スライムが窓から押し出されそうになっている!車掌はスライムを押し込めようとして手を伸ばし…!!!
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」
案の定スライムの毒が掌の布手袋から染み込んで全身に回って絶命した。スライムは窓から押し出されて電車から降りることになってしまったので、目の前に落ちている車掌を捕食した。電車はすし詰め状態のまま草原の端に消えたという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
車掌は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
車掌はコンビニで靴の消臭スプレーと納豆巻きを買って帰路に就いた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかってたら事故見ただけじゃすまなかったですね、事故は本当に怖いですね、いやですね、うーん。」
車掌は、毎日丁寧に案内放送をしていたのですが、どうもイントネーションに特徴があるらしくお笑い芸人に物まねをされるようになってしまい、それがバカ受けして本物の車掌さんに会いに行こうツアーなるものが組まれてしまうようになりずいぶん辟易しましたが、定年までしっかり勤め上げたのち、孫と一緒に電車を毎日見に行く生活を続けた後、77歳でこの世を去ったという事です。




