ぐちぐちぐちぐちぐちぐち
西田譲二はごく普通のいくじなしである。毎日今日はやめておこうと思って、毎日決断を先延ばしにする、齢30のいくじなしである。今日も今日とて、仲良しの女性にお付き合いの申し込みをしようとして諦めた後、行きつけのコンビニで二つ並んだフライドチキンの小さい方を渡されて何も言えずにそのまま買って家路についていた―――のだが。
ギュウギュキュギュキュ―――キキ―――ッ!キギュイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。西田譲二の魂と、女神が対面している。
「西田譲二さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
西田譲二(30)
レベル10
称号:転生者
保有スキル:ぐちぐちぐちぐちぐちぐち
HP:10
MP:21
「というわけで、いきなり草原に放り出すのはずいぶんひどいよね、なんでこういう事になるのかね、そういう運命なのかね、アアアアアアア。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がいくじなしの前に現れた!
「わっ!スライムだよ?!戦うつもりは微塵もないので、逃げよう、うん。」
うろたえる、いくじなし。
「保有スキル試した方が確実か?ぐちぐちぐちぐちぐちぐちって何、愚痴言ったら勝てるのかよ…。」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「そもそも愚痴って何なんだ、僕はいつも一生懸命やってるよ、ただみんなの方が認められやすいタイプっていうかだいたい僕はいつも選び間違えるんだ、たいてい右を選んだときは左が正解だし何やってもうまくいかないけど生きていくためには何かしないといけないし何かを選ばなきゃいけないしでも選べないから誰かに頼って、それを咎められる、すべてがかけ違いの人生、そういうもんだよ、わかる?」
スライムはなんだか心が痛くなった!心に2のダメージ!
「ほら、その程度なんだって、君はいいな、ただぷよぷよしているだけで存在価値がある、僕はどこにいたって前に出られずかといって奥に引っ込むこともできず、毎日後悔して毎日くよくよして好きな人に好きという事もできずあーあ、言いたいことが言える人間になりたかったな。ちゃんとした人間になりたかったな。自分が嫌になるよ、大っ嫌いだこんな自分は。」
ああそう?じゃあ食べてあげるよ!捕食する分には別に問題ないからね!スライムは遠慮なく意気地なしを捕食した。結構ねちねちとした食感だったらしい。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
いくじなしは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
いくじなしはコンビニで二つ並んだフライドチキンの小さい方を渡されて何も言えずにそのまま買って帰路に就いた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと早く通りかかってたら…告白することすらできずに、僕は。」
いくじなしは、長年好意を寄せていた女性に気持ちを伝えるチャンスを窺い続けて年を重ねたのですが女性の方からアプローチがあったので乗っかることができ結婚したものの豪快な人と暮らす毎日に心底辟易してしまいどんどん自信を無くして無気力になったのち口うるさすぎる嫁と口うるさすぎる子供たちの声に小さくなりながら70歳でこの世を去ったそうです。
なお、体重は40キロしかなかったとのことです。




