デコレーション
小河原隆文はごく普通のケーキ屋である。毎日生クリームを泡立て、毎日新作ケーキのアイデアを練る、齢42のケーキ屋である。今日も今日とて、バースデーケーキの名前の書き間違いを指摘されてお詫びのクッキーと正しいプレートをお客さんの家にお届けした後、行きつけのコンビニでキムチとビフィズス菌飲料を買って帰路についていた―――のだが。
ギュ―――キュキュキイッ!!ギュイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。小河原隆文の魂と、女神が対面している。
「小河原隆文さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
小河原隆文(42)
レベル20
称号:転生者
保有スキル:デコレーション
HP:20
MP:46
「というわけで、いきなり草原に放り出されてしまった僕は、これからどうしたらいいのかなー。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がケーキ屋の前に現れた!
「おわはっ!スライムっ!武器も何もないよー!どうするんだよー!戦う?ねえ。戦うの?」
うろたえる、ケーキ屋。
「あっ!保有スキル!試してみないと!で、デコレーション?!」
うばほん!!!
泡立て済みの大量の生クリーム、絞り袋に口金、湯煎済みのチョコレートに沸き立つ飴、その他もろもろデコレーション材料がテーブルとともに現れた!スライムはデコレーションされるのをデコレーション台座に座って待っている!
「っ!!この透き通る水色の美しさをいかに生かしてデコレートするのか…!!!僕の技量が試される時が来た!!ぐっ、うぉおおおおお!!!」
ケーキ屋は心血注いでスライムをデコレーションする!スライムを雪原の幻想的な凍らない湖に見立て生クリームで外側を繊細な絞り出しテクニックを駆使して飾り立てると、チョコレートを組んで歪なのに均衡のとれた芸術作品としか言いようのない城を乗せた。飴細工を駆使して城を纏う妖気を表現し…湖表に浮かぶウンディーネ像を作ろうと手掛けたその時!スライムがくしゃみをして、すべての芸術が崩れ去った!
「ああー、仕方ないね…。」
ケーキ屋は崩れた作品を拾って食べ始めた。スライムは自分のしでかしたことにどうにも居た堪れなくなってしまい、自棄になって証拠隠滅のためにケーキ屋ごとすべて丸のみにした。スライムはしばらく自分の愚かさに泣き暮らしたという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
ケーキ屋は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
ケーキ屋はコンビニでキムチとビフィズス菌飲料を買って帰路についた。自宅近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あと少し早く通りかかってたら特注のケーキ仕上げることができなかったねー、気を付けないとねー。」
ケーキ屋は、ものすごいテクニックを持っているくせに大会に出ることを拒み続け毎日ショーウインドウに芸術的作品を展示&提供し続けた結果、極小店舗の外にお客さんがぐるりと列を作って並ぶようになってしまい近所からクレームが殺到し店舗移転することになってしまったものの、製菓パフォーマンスを披露できるステージを設けることでさらなる人気を呼び糖尿病が悪化して66歳でこの世を去るまでデコレーションの魔術師の名をほしいままにしたそうです。




