回っても寿司、回らなくても寿司
井出健司はごく普通のすし屋である。毎日シャリを握り、毎日あら汁を作る、齢52のすし屋である。今日も今日とて、貸しきり懐石コースを提供したあと、コンビニで綿棒と生クリームどら焼きを買って家路についていた―――のだが。
ギュギュギ―――ギュ―――イッ!!キッイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。井出健司の魂と、女神が対面している。
「井出健司さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
井出健司(52)
レベル22
称号:転生者
保有スキル:回っても寿司、回らなくても寿司
HP:30
MP:15
「というわけで、いきなり草原に放り出されて、俺はどうしたらいいんだろうね。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がすし屋の前に現れた!
「おお?!スライムってやつだな?!武器も何もないわけだが、おいおい、どういうことだ?」
うろたえる、すし屋。
「ああと!保有スキル!試して…回っても寿司、回らなくても寿司、なんだこれは!!」
うばほん!!!
寿司カウンターが現れたぞ!!流れるレーンもある!!おっと、レーンに何も流れていない!これではお客さんは何も取ってはくれないぞ!!!
「ヤベえ!!とにかく流さなきゃ始まんねえ!!まずは稲荷を流して、軍艦流して、卵も焼いてあるな、それも流して…」
すし屋は手際よく空のレーンに寿司を流し始めた。スライムは初めての回転ずしにワクワクしている!次は何が流れてくるのかな!すし屋は入荷したてのぶりをさばき始めた!これはうまいぞ!次々にレーンにぶりを流していく!やがてレーンはぶりと卵といくらと稲荷寿司とサラダ軍艦で埋まった!
「ほしいもんあったら言って下せえ!握りやす!」
すし屋はスライムに声をかけた。スライムは甘えびが食べたいと思ったが、声を出すことができない!すし屋はスライムの気持ちに微塵も気が付くことなくマグロを握り始めた。スライムはいらいらしてしまい、ついついすし屋を頭から丸呑みしてしまった。スライムは一時の怒りで永遠の贅沢を失ってしまったことに心底後悔をしたという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
すし屋は時間を巻き戻されて、コンビニの前に立っていた。コンビニの前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
すし屋がコンビニで綿棒と生クリームどら焼きを買って帰路についていると、家の近所の交差点で車の暴走事故が発生していた。
「あと少し早く通りかかってたらひかれてたやつだよ!明日も懐石入ってんだからさあ!あぶねえなあ…。」
すし屋は、コロナ騒ぎで営業中止に追い込まれてひどい目にあったものの、家庭で楽しめるお寿司パーティーセットの販売が人気を呼んだこととなじみ客の応援もあって何とか踏ん張ることができ、地域住民の皆さんから愛されるお店を長らく営業したのち息子に店を譲ったあと、一年もたたないうちに回転ずしチェーンになってしまってずいぶん凹んでいましたが、これはこれでうまいもんだとニコニコして78歳でこの世を去ったという事です。




