福山はどちらかと言えば岡山寄り!カモンベイビー!!OKAYAMA♪
県外の方にはピンとこないかもしれませんが、広島県は意外に東西に長いのです。
広島市と福山市はおよそ100キロ近くあります。
普通列車では相当時間がかかります。
まして、和泉氏がこれから訪ねて行こうという交番が、駅からだいぶ離れていたら……タクシーしかないでしょう。
仕方ない。駅に来たついでもあるし、和泉は後で請求するつもりで思いきって新幹線の切符を買った。
堤警備部長の息子と同期だという若い巡査の任務地は、福山の駅からもさらに遠い、過疎地と言ってよい場所だった。
何かやらかしたのか……?
いや、この際何も言うまい。
そんな訳で。
福山駅からかなり距離があったので、遠慮なくタクシーを使わせてもらった。
そして。福山市内のとある交番で出会った別の若い巡査も、駅前交番で聞いたのと同じ内容の話を聞かせてくれた。
沓澤に問題がある訳ではなかった。
ただ単に、厳しい授業についていけなかっただけだ、と。
「彼、総代の座は間違いなしって言われていたんです」
総代。卒業式の時、答辞を読むその役割は学生にとって最大の栄誉だ。
「なんでもお祖父さんがすごく厳しい人で、総代に選ばれなければ、2度と家の敷居を踏ませないとかなんとか。で、彼もそれなりに頑張っていたし……自信もあったみたいですが……」
「そうは問屋がおろしてくれなかった、と?」
若い巡査は苦笑しつつ、答えてくれる。
「総代の座は他の学生に移りました。詳しい事情を我々は知りません、ですからあくまで噂ですが……沓澤教官が異を唱えたとかなんとか」
噂ではないだろう。
おそらく真実に違いない。
彼は、警備部長の息子を特別扱いしたりしなかったのだから。
「それと彼、中間試験の時に一度だけやらかしたんですよ……」
「やらかした? 何を」
「……カンニングです。いや、すぐに発覚して未遂に終わりましたけどね」
結論として。
自殺の原因は、たんなるお坊っちゃまの甘えということだ。
沓澤に責任を問い詰めることができれば、親としても少しは気が晴れただろうが。
どうして息子に、他の教官達と同じく気を遣ってくれなかったのか。
勝手な言い分だが、それが人間の持つ自然の感情だとも言える。
ふと和泉の頭の中に、いつも顔を合わせている同僚の無表情な顔が浮かんだ。
彼もまた同じような環境、条件だったはずだ。
父親に命じられるまま警察官への道に入った彼だが、きっと浮ついたところなど何一つなく、ひたすらコツコツと真面目で一生懸命だったに違いない。
それはさておき。
その堤洋一という巡査は追い詰められていた。
カンニングなどという不正に手を出すまでに……。
そうして逃げ道を失い、自ら命を絶った。
情報としては充分だろう。
あの沓澤という教官は自覚のないまま恨まれていたということだ。
遺族としては、彼以外に責めるところを見い出すことができなかった。
その時ふと、和泉の頭に閃いたことがあった。
堤洋一の自殺事件と、彼と同じ204号室を使用していた一ノ関の死、そして。
事故で亡くなった西岡の件……何か関連があるのではないか。
根拠はないが、そんな気がしてならなかった。




