コンビニの息子から話を聞いた
おそらく2人の学生が亡くなった原因を探るには、もっと過去に遡らなければならない。
きっと何か裏がある。
そう考えた和泉は一ノ関と西岡の同級生を探すことにした。しかしそのほとんどは進学か就職のため、県外に出てしまっていた。
そんな中で唯一、地元で生家の自営業を手伝っているという2人の中学時代の元クラスメートを見つけることができたのは幸いだったかもしれない。
元は酒屋だったが、コンビニエンスストアに切り替えて営業しているというその店は、大通りに面した好立地だったため、なかなか客足が落ちなかった。
待つのには慣れている。
和泉は店が少し落ち着くのを待って、それからオーナーの息子だという若い男性を、近くのカフェに連れて行った。
彼は井手と名乗った。
暑いので、いずれもアイスコーヒーを頼んだ。
「ああ~、あのトリオですか!! 寺尾と西岡と一ノ関でしょう?! 有名でしたよ」
一ノ関と西岡の名前を出した途端、彼は笑いながらそう言った。
「……どんなふうに有名だったんですか?」
「まぁ、何て言うのか……わかりやすく問題行動を起こすって訳じゃなくて、いつも何をするにも一緒でね……ただ、高校はそれぞれバラバラの学校へ進学したんですけど。まさかまた、皆で一緒に警察に入るなんて思いもしませんでしたよ」
思い出し笑うその瞳に、微かな侮蔑の色が浮かんだ。
あまり彼らに対して良い印象は持っていないようだ。
「しかし、あの寺尾が警察官ねぇ~……およそ正義感とは程遠い所にいる人間が、よく採用されたもんですね」
「……学生時代のことで何か、印象に残っている出来事はありますか?」
井手は少し悩んだ後、
「実は僕、寺尾とは小中学校と同じ学校だったんですけどね……あいつ、ほんと女癖が悪いんですよ」
「へぇ?」
「うちの中学は公立だったんですけど、意外と、いいとこの家の坊っちゃん嬢ちゃんがクラスに何割かはいたんですよね」
和泉は黙って頷く。
「寺尾が狙うのはいつも、いいところのお嬢様ばっかりで。奴自身はたいして顔が良い訳でもないのに、要するに取り入るのが上手いんですよ。次から次へと、いろんな子に声かけてましたね」
どうやら多少の嫉妬も混じっているようだ。そこは目をつぶるとして、
「何人ぐらい、そのお相手をご存知ですか?」
「少なくとも3人は知っています。それが、とても酷い話がありましてね……一番印象に残っているのは、堤さんっていう女の子のことなんですが」
「下のお名前は覚えていますか?」
「いえ、忘れてしまいました。すみません。綺麗な女の子でしたよ。ちょっと体つきは大柄だったんですけど、手足なんかモデルみたいに、すら~っとして長くて。彼女、父親が県警の偉い人だとかで、あの逆玉男……」
「逆玉男?」
「ええ、皆で奴のことをそう呼んでいました。さっきも言いましたけど、狙う子の父親か母親はみんな、何かしらの分野で有名な子ばっかりで。でも、堤さんの場合……かわいそうに、2年生の頃にご両親が離婚したんですよね。お母さんの方についていったので、そうすると、県警の偉い人の娘じゃなくなる訳じゃないですか。そしたらあの男、途端に今度は別の、とある銀行の支店長の娘に乗り換えて……実にわかりやすかったですね」
「なるほど……」
「なんですが、実にこの後、笑えない事実がありましてね。元堤さん、お母さんがとある医科大学の教授と再婚したんですよ。新しい名字は忘れてしまいましたが、そうしたら寺尾の奴、また彼女にちょっかいを出し始めて……」
「その、元堤さんの反応は?」
「当たり前ですけど、シカトですよ、シカト」
でしょうね、と和泉は苦笑いを浮かべる。
「しかし、なんでしょうね。よほど貧しい家庭に育ったのですか? 寺尾氏は」
不幸な生い立ち故、いずれ社会的に高い地位と名声を得て、世間を見返してやろうという精神なら分かる気もする。
そのためには本人の努力も必要だが、それだけでは充分ではないこともあるだろう。
世の中はコネがものをいうこともある。




