面倒くさい男
周君ってば、恥ずかしがり屋さんなんだからな~。
なんであんな、遠くの席に座ろうとするんだろう?
ここにいるんだから、堂々と僕の向かいなり、隣なりに座ってくれればいいのに。
それでいて、お友達の前で【彼氏】です!! って、僕のこと紹介してくれたらなぁ……。
和泉は食堂の隅に陣取り、学生達の動向を監視しつつ、頭の中でアホな独り言を展開していた。
しかし。
高校野球の中継などを見ていていも感じるが、同じ年齢でもしっかりと身体が出来あがっていて、顔つきも大人っぽい子がいる中で、未だに幼さが抜けない子もいるものだ。
以前、誰かが言っていた。
警察学校とは「ふるい」なのだと。
適性のある者だけが残ることができ、そうでない物は落ちてしまう。
もちろん、実際に現場に出てから不適格だと烙印を押される人間もいるにはいるが。
適正に大人も子供も関係ない。
果たして何人、生き残るのだろうか……。
それはさておき。
自殺したとされる生徒のことだ。彼が親しくしていたのは……。
和泉は秘かにポケットからスマホを取り出して確認した。
するとその時、
「捜査1課強行犯係の和泉彰彦警部補ですよね?」
急に声をかけられて和泉は驚いた。
誰だ?
「君は……?」
整った綺麗な顔立ち、しかし背丈はやや低め、身体の線も細い。
「上村と申します、どうぞお見知りおきください」
その青年は、ニコニコしながら挨拶してくれた。
咄嗟に名簿を確認する。
名前は上村柚季。
「実は、親類に警察関係者がいまして。係長のお名前とお噂はかねがね……」
どうせロクでもない噂だろう。
「大変、優秀な刑事さんだとお聞きしています。数々の難事件を解決に導いた頭脳派であり、かつて特殊部隊HRTにおられた実績もあると」
何者だ?
和泉がかつてHRTにいたことを知る者はあまりいない。
途端に警戒心を覚える。
「……実は僕も刑事志望なんです。今度一度、ゆっくりとお話を聞かせていただいてもいいですか?」
「……そのうちね……」
するとなぜか、上村と名乗った青年は周の方を見て言った。
「彼、本当に素晴らしいですね。藤江周君」
「そうだね」
「まるで警察官になるために生まれてきたような人間です。正義感に溢れていて、優しくて……とても真っ直ぐだ」
周のことを褒められると、自分のことを褒められたかのように嬉しくなってしまう。
決して悪い子じゃないかもしれないな、と単純な和泉は思い始めていた。
「……それでは」
彼が去ったあと、入手した50期生の名簿を再度確認する。
上村に関して言えば、頭脳の点では類を見ないほど成績抜群だ。
ただあの体型からして体育系は難しそうだと思う。
彼は「ふるい」にかけられて、残ることができるのだろうか?
それはさておき。
和泉がふと眼を上げると、周の隣に座っている女子学生が、笑いながら彼の肩に触れているのが目に入ってきた。
なんだあの子!!
そうかと思えば、その反対側に座っている座高の高い男子生徒も。
今、周の頭を撫でなでしただろう?!
必要以上に親しくするんじゃない。
見てろよ、今度授業を受け持つ機会があったら、絶対に難題を指名してやるからな!!




