だから定時には帰りたいわけ
和泉は改めてその写真を、スマホのタイムスタンプを確認してみた。
撮影されたのは7時18分から26分。
沓澤と宇佐美梢が言い争っていたとされる時間帯の少し前だ。つまり、その時には沓澤と被害者、水城陽菜乃の3人が一緒にいたということである。
北条の元に、この写真が添付されたメールの届いたのは7時50分ごろ。
何かここから手がかりを探すことができないか。
和泉は再度、いろいろな角度から見つめ直してみた。
鑑識に回して画像を詳細に解析することもできるだろうが、今は時間が惜しい。
拡大してみたり、回転させてみたり、あれこれと試してみたところ、和泉はふと妙なことに気付いた。
水城陽菜乃の首にマフラーが巻かれている?
この暑いのに。
パッと見た瞬間は、映っている2人のポーズが衝撃的で気付かなかったが。よく見ると彼女は私服姿だった。大会の後、道着を脱いで服を着替え、どこかに出かける予定だったのかもしれない。
「彰彦、どうしたんだ?」
「いや、この暑いのに彼女……マフラーしてるなって……」
そう言えば今日の昼間、包ヶ浦海岸で会った時も同じものを首に巻いていた気がする。
「何言ってんのよ、これはストールよ。紫外線を遮る為のね」
「……それって、日が暮れてからも巻くものですか……?」
「そりゃ、お洒落の一環ではあるわよ。あと、エアコンが効きすぎて寒いから、っていう理由もあるだろうけど……何か、そのことが気になるの?」
「北条警視、女性のファッションに詳しいですね。さすがにオカマだけあ……嘘です、ごめんなさい」
和泉はスマホを彼に返した。
「……何となく気になっただけです、忘れてください」
それから刑事達は三者三様、それぞれの物想いと考えにふけり、誰もしゃべらなくなった。
そうしている内に段々と、空気が悪くなってくる。
それらを払拭するかのように、聡介が口を開いた。
「そうだ、彰彦。さっきのあの女の子も、周君と一緒に包ヶ浦へ来ていたな。何のために来ていたのか、彼女はなんて言っていたんだ?」
彼女は現場で自分達と出会った時、何と言っていたか。
『海水浴に来ました』
『水着を忘れちゃって』
いや、彼女は花束を持っていた。それに、明らかに嘘をつく人間に特有の表情をしていたと思う。
「彼女は今日、宮島へ海水浴に来たと言っていたんです。でも、周君の様子はおかしかった。たぶん違うことを聞かされていたんです。そして花束……」
「花束? ひょっとして墓参りだったんだろうか?」
聡介が何気なく言った一言が、和泉の頭脳を刺激した。
「包ヶ浦海岸……花束……もしかして!!」
和泉はスマホで【包ヶ浦海岸 事件・事故】について検索をかけてみた。
しばらくして、今から3年前に起きた事件についての記事があらわれる。包ヶ浦海水浴場の端っこで、不良少年グループに絡まれた少年が、石に頭を打ち付けて亡くなった。
周が先ほど言いかけたのはきっと、このことだったのだ。
その新聞記事には顔も名前も掲載されていない。だが、廿日市南署に詳しい資料が残っているはずだ。
「聡さん、今から廿日市南署に戻りましょう!! それと、うさこちゃんでも郁美ちゃんでも誰でもいいです。とにかく、誰か女警を女子寮の方に張り付かせてください!!」
父は目を白黒させている。
「なんで……?」
「いいから、早く!!」
まだ断定はできないので、推測になるが……逃走および証拠隠滅の恐れがある。
下手をすれば自殺の恐れも。
だが和泉はそれらを口にはしなかった。




