表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/157

だから定時には帰りたいわけ

 和泉は改めてその写真を、スマホのタイムスタンプを確認してみた。

撮影されたのは7時18分から26分。

 沓澤と宇佐美梢が言い争っていたとされる時間帯の少し前だ。つまり、その時には沓澤と被害者、水城陽菜乃の3人が一緒にいたということである。

 北条の元に、この写真が添付されたメールの届いたのは7時50分ごろ。


挿絵(By みてみん)


 何かここから手がかりを探すことができないか。

 和泉は再度、いろいろな角度から見つめ直してみた。


 鑑識に回して画像を詳細に解析することもできるだろうが、今は時間が惜しい。


 拡大してみたり、回転させてみたり、あれこれと試してみたところ、和泉はふと妙なことに気付いた。


 水城陽菜乃の首にマフラーが巻かれている?

 この暑いのに。


 パッと見た瞬間は、映っている2人のポーズが衝撃的で気付かなかったが。よく見ると彼女は私服姿だった。大会の後、道着を脱いで服を着替え、どこかに出かける予定だったのかもしれない。


「彰彦、どうしたんだ?」

「いや、この暑いのに彼女……マフラーしてるなって……」

 そう言えば今日の昼間、包ヶ浦海岸で会った時も同じものを首に巻いていた気がする。


「何言ってんのよ、これはストールよ。紫外線を遮る為のね」

「……それって、日が暮れてからも巻くものですか……?」

「そりゃ、お洒落の一環ではあるわよ。あと、エアコンが効きすぎて寒いから、っていう理由もあるだろうけど……何か、そのことが気になるの?」


「北条警視、女性のファッションに詳しいですね。さすがにオカマだけあ……嘘です、ごめんなさい」

 和泉はスマホを彼に返した。

「……何となく気になっただけです、忘れてください」


 それから刑事達は三者三様、それぞれの物想いと考えにふけり、誰もしゃべらなくなった。


 そうしている内に段々と、空気が悪くなってくる。

 それらを払拭するかのように、聡介が口を開いた。

「そうだ、彰彦。さっきのあの女の子も、周君と一緒に包ヶ浦へ来ていたな。何のために来ていたのか、彼女はなんて言っていたんだ?」


 彼女は現場で自分達と出会った時、何と言っていたか。


『海水浴に来ました』

『水着を忘れちゃって』


 いや、彼女は花束を持っていた。それに、明らかに嘘をつく人間に特有の表情をしていたと思う。


「彼女は今日、宮島へ海水浴に来たと言っていたんです。でも、周君の様子はおかしかった。たぶん違うことを聞かされていたんです。そして花束……」

「花束? ひょっとして墓参りだったんだろうか?」

 聡介が何気なく言った一言が、和泉の頭脳を刺激した。


「包ヶ浦海岸……花束……もしかして!!」


 和泉はスマホで【包ヶ浦海岸 事件・事故】について検索をかけてみた。


 しばらくして、今から3年前に起きた事件についての記事があらわれる。包ヶ浦海水浴場の端っこで、不良少年グループに絡まれた少年が、石に頭を打ち付けて亡くなった。


 周が先ほど言いかけたのはきっと、このことだったのだ。


 その新聞記事には顔も名前も掲載されていない。だが、廿日市南署に詳しい資料が残っているはずだ。


「聡さん、今から廿日市南署に戻りましょう!! それと、うさこちゃんでも郁美ちゃんでも誰でもいいです。とにかく、誰か女警を女子寮の方に張り付かせてください!!」


 父は目を白黒させている。

「なんで……?」


「いいから、早く!!」

 

 まだ断定はできないので、推測になるが……逃走および証拠隠滅の恐れがある。

 下手をすれば自殺の恐れも。


 だが和泉はそれらを口にはしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ