パパラッチか!!
「……俺のせいだって、あんたもそう言うんですか……?」
沓澤は血の気を失った顔色で、ギョロリと目を剥く。
北条は溜め息をついた。
「言わないわ。ただ、そう考えている人間がいるってこと。この際だからぶっちゃけておくわ。堤洋一の父親がね、真相を調べて欲しいってアタシ達に頼んできたのよ」
「あたし達……?」
「和泉っていう刑事よ」
「ああ、あの……」
堤部長が見せてくれた、あの遺書の最後に書いてあった文言は黙っておく。
「あいつが堤洋一の同期生に話を聞いて来てくれて、疑いなく自殺だってことが判明したわ」
沓澤はホッとしたようで、深く息を吐く。
「だけど、どうして今になって……?」
「わからないわよ。でも……例えあんたのせいじゃないってわかっても、遺族感情としては納得がいかないものよね」
「それは、そうかもしれません。ですが。俺は自分が間違っているとも思いませんし、パワハラだと野次られても、今までずっと同じように指導してきて、何人もの新任警官を現場に送り出してきました」
「ええ、そうね。だけどそれはあくまで、あんたの言い分だわ」
「……」
「耐えられない、ついていけないなら、辞めればよかった。そう言う意見もあるでしょうね。その子はでも、辞められない事情があった。それならいっそ……」
「……結局、俺のせいで堤洋一は死んだ……あんたもそう言いたいんですか?」
不毛な話し合いになってきた。
そうじゃない、そう言いたいところだが上手く言葉が見つからない。
北条は長い前髪をかきあげた。
「話を戻すわ。とりあえず、この写真が撮られた時の状況を詳しく説明してちょうだい」
沓澤はしばらく黙りこんだ。
しかしやがて、
「……元々剣道の試合のことで、どちらが先鋒で出るか、水城陽菜乃と宇佐美梢はひどく揉めていました。結局くじ引きで決めたそうですが。ただ、水城のミスで団体戦は3位に終わった……そのことで大会終了後、宇佐美からずいぶんと責められたのだそうです」
自分だって負けたくせに。
まぁ、あの子の性格上……というよりも人間はとかく、自分のミスは棚に上げておくものだけれど。
「その騒ぎがあったのは? あんたも現場を見たの?」
沓澤は首を横に振る。
「見ていませんし、そもそも彼女達の行動をすべて把握してはいません。俺自身は、大会が終わった後……あちこちに一通りの挨拶をして、雑用を片付けて……帰宅しようと思って教官室に戻りました。帰り仕度をしていたところへ、ひな……水城が泣きながら俺のところにやってきました」
今『陽菜乃』と言いかけてやめた。
そこは今、突っ込むまい。気付いているのかいないのか、沓澤は続ける。
「……それを追いかけて、宇佐美もやってきました。出場の順番については俺も意見を出したので、どう責任を取るつもりかと、くってかかられました」
「その時、教官室にいたのは?」
「俺1人だけです」
「……それから?」
「なんとか宇佐美を宥めて、彼女も一度は去っていきました。でも水城の方は全然泣きやまなくて……それで俺は、彼女の愚痴を聞いてやることにして……他の人間に見られたくないと言うからこうして、今あんたとしているように、駐車場の車の中で話をしました」
嘘をついているのかそうではないのか、現時点では判別がつかない。
「その場面を、写真に撮られたって訳ね」
北条が何か口にするのを遮るかのように、沓澤は続ける。
「その写真、宇佐美の携帯から送られてきたんでしょう?」
「……」
確かにこの画像は、宇佐美梢のスマホから送られてきたものだ。
「どうなんですか?!」
沓澤の必死の表情に、北条はなぜか違和感を覚えた。
なんだか、どうか肯定して欲しいと言っているようにも聞こえる。
「……実は車の中で俺が彼女と話しているところへ、また宇佐美がやってきたんです!! しつこく文句を言って来て……写真を撮られたのはきっと、その直前です。あいつ、この写真を上に提出したらどうなるかなんて……」
北条は溜め息をつきたいのを必死で堪え、次に何と言うべきか頭の中で思い巡らせていたが。
「……それからどうしたの?」
それから彼は、独り言のように呟く。
「宇佐美を寮に帰るよう何とか説得して……どうにか場は収まりました」
「それから?」
「……もういいじゃないですか、とにかく……」
「ねぇ、沓澤」
北条は沓澤の顔を真っ直ぐに見て言った。「とにかく。今日、帰ったらまず珠代に謝りなさい。たとえ気持ちの上だけであっても……本来、妻にだけ向けるべき関心を、必要以上に他の女の子へ向けたりするのが正しいことなのかどうか……自分で考えて」
「……あんたには、俺の気持ちはわからない……」
「何ですって?」
その時、2人の携帯電話が同時に鳴りだした。




