特訓編 2
いきなり景色がなくなり、周囲は真っ暗になってしまった。
な、何が起きたんだ!?
庭じゃなくなってる。
それにプロネアはどこ?
異常事態に慌てていると、彼女の声が聞こえてくる。
「ここは電子情報空間ですよ、クトリール様」
声のした方へ振り返ると、そこにはプロネアの姿があった。
あっ、そっちにいたんだ。
「プロネア。電子情報空間って、どういうこと」
「言い換えればフェンネスの内部世界ってことです。ワールドフレームというユニークスキルは、フェンネスが元となって生まれたスキルですから」
「つまり仮想空間ってこと?」
「そうとも言えますね。あるいは、意識だけの世界とも言えます」
つまり俺は、仮想の世界でプロネアと会ってることか。
「だとすれば、現実の体は今どうなってるの」
「放置されてますよ。二人で仲よく、お庭でお昼寝中です」
「あ、あぶなくないの!?」
「まあ近くにモンスターもいないですからね。平気でしょう」
ホントかなぁ……
まあ大丈夫なら、別にいいんだけど。
「それで。こんなとこに連れて来て、どういうつもり」
「今のクトリール様がダンジョンに行っても死ぬだけです。なので、せめてもう少しだけでも強くなって頂けないかなと思いまして、無理矢理にでもスキルを覚醒させようと試みているのです」
「だったら特訓する前にやってよ!」
それだったら、あんな死ぬような目に合わなくて済んだのに。
「いえいえ、あれは日課ですから毎日やりますよ」
「えっ、嫌だよ。そんなの」
「弱いままだと何もできず、元の世界にも帰れませんけど?」
「ぐっ……仕方ない、しばらくは付き合うよ」
「はい。これからも、よろしくお願いしますね」
「本当にしばらくだからな。それと、ちゃんと俺のレベルに合わせてよ」
そう抗議すると、プロネアはとても悩んでいた。
「うーん、レベル1のクトリール様に合わせるのは極めて難しいかもです」
「分かってて、あんな無茶な訓練やってたの?」
「甘やかしたところで、成果は上がりませんから」
きびしい……
プロネアちゃん、とてもきびしいよ。
「でも成長されないのも困りますし。私からデータを差し上げます」
「なにそれ」
「言うなればクトリール様専用の経験値です」
「えっ、経験値って貰えるの!?」
「まあ見ててください」
そう言うとプロネアは俺の手を取り、目を閉じた。
その直後――
何かが体の中に入り込んでくる感覚に襲われる。
な、なにこれ。
思わず拒絶しそうになるが、彼女が制止してくる。
「それがデータです。そのまま受け取って下さい」
なんだか違和感があるのだけど、そう言われたらな。
経験値だと思って我慢するしかない。
そうして体をめぐった感覚は、最後に頭へ流れ込んできた。
――アナライズ/カリキュレートをインストールしました。
――アイテムボックスをインストールしました。
新しいスキルを習得したみたい。
ステータスを確認したいんだけど、どうすればいいんだっけ。
困ってるとプロネアが教えてくれる。
「どうやら送受信は成功したようですね。詳細はメニューから確認できますよ」
「メニュー?」
「はい。メニュー画面を呼び出すんです」
「どのように」
「このようにです」
そう言うとプロネアは、指先で空中をはじいた。
すると透明な画面が現れる。
なるほどな、俺も真似してみよう。
指先を空中ではじくと――
―― メニュー ――
――パーティー
――ステータス
――アイテム
――ギルド
おっ、出てきたな。
さっそくステータスをタッチしてみた。
ネーム:クトリール
レベル:29
種族:ヒューマン
称号:コアホルダー
ジョブ:アサシン
スキル:ワールドフレーム、
アナライズ/カリキュレート、アイテムボックス
さっき習得したスキルが、ちゃんと追加されてるな。
――スキル詳細、アナライズ/カリキュレート
:様々なものを見極められる万能の演算システム。
:保有者、プロネア。
――スキル詳細、アイテムボックス
:容量が許すまでアイテムを入れられるストレージ。
:保有者、プロネア。
スキルの情報はこんなところか。
そして経験値を得たことによって、レベルも上がってるみたい。
そこまで確認すると、ふたたび新しい情報が入ってきた。
――リンク切断、from プロネア。
どうやらこの仮想空間から、彼女は出て行ったらしい。
それなら俺も現実の世界に戻りたい。
どうすればいいの……




