特訓編
朝食を取り終えると、俺は屋敷の庭に連れてこられた。
庭はかなり広く、大人が走りまわったとしても十分な広さがあった。
何ならサッカーさえ出来るだろう。
もっとも、伸び放題になった草木の伐採は必要そうだが。
ここは全く手入れがされてないみたい。
まるで屋敷全体がボロいのを、強調してるみたいだった。
もっともそんなことをしないでも、屋敷がボロいのは一目瞭然なんだけどな。
何百年も放置されたみたいな荒れ具合だし……
俺は先を歩く彼女に話しかける。
「プロネア、こんなところに連れて来て何をするの」
まさか、こっから外に行くことはないよな。
何の用意もしてないぞ。
ギルドへ行くとは決まったけど、準備だって必要だろう。
戻るように声を掛けようとかと迷っていると、プロネアは立ち止まった。
彼女は振り返ると、話しかけてくる。
「まずは出かけるための準備ですよ」
なるほどな。
熟練のゲーマーである俺の洞察力は、この先の展開を見抜いた。
さっきの何気ない草木、あれが伏線だったわけか。
「さてはここに生えてる植物、実は薬草だったりするんだな」
「違いますけど。ここにあるのは、本当にただの雑草です」
なんだよ。
推理が外れてがっかりしてると、彼女が問いかけてくる。
「ところでクトリール様。ダンジョン攻略で大切なことって何だと思います?」
「えーとっ、そりゃ回復アイテムの用意だったり、状態異常対策かな」
俺は自信満々に答えた。
どれだけのゲームでダンジョンを踏破したと思っているのだ。
対策と準備が出来ていれば突破できないダンジョンなどはない。
そう思っての回答だったが、プロネアは首を振った。
「確かに大事ですけど、根本的な問題として、強ければ必要のないことです」
「それはそうだけど、攻略していくうちにレベルも上がるだろ」
「ええ、普通は。でもクトリール様は違いますよ」
「どういうこと!?」
思わず驚いた声を出す。
しかしプロネアはそんな俺を無視して、距離を取るように再び歩き出した。
5メートルは離れただろうか。
彼女は対峙するようにこちらへ振り向いた。
「クトリール様はモンスターを倒しても、レベルが上がることはありません。それがワールドフレームの業です。ですから、今ここで戦闘を覚えて下さい。せめて体術くらいは使えないとですね」
――そう言うや否や、プロネアは一気に距離を詰めてくる。
そして顔面に向って蹴りを放ってきた。
スカートなのに足を上げたせいで、パンツが見えてるよ!
ふとももの綺麗な筋肉がニーハイソックスに包まれ、しなやかに伸びている。
それは俺の首へと無駄のないラインで放たれた。
「ぶごぉぉぉっ」
すごく痛い、首がもげそう。
変なところを気を取られていたせいで、思いっきりまともにくらった。
蹴り飛ばされた俺は地面に倒れ込む。
「クトリール様、倒れたら追撃されると思って下さいね」
その言葉の直後、魔法による砲撃が行われた――
体術って言ってなかったっけ……
俺は必死に逃げた。
――2時間後。
ボロボロになった体に、プロネアが回復魔法をかけてくれる。
「お疲れ様でした。これでプロネアちゃんの実践講座、午前の部は終了ですよ」
やっと終わったか。
もう無理、今日は休もうよ。
ご飯食べたら昼寝したい。
「どうやら、ワールドフレームを自覚的に使えていないようですね」
「使えないよそんなの。あのときだって勝手に発動しただけだし」
「あのときとは?」
えっ、あのときって……
うーん、無意識にそう言ったけど、いつだっけ。
「クトリール様、大丈夫ですよ」
「えっ」
ふと、その視線を受け止めた。
プロネアの綺麗な紫の瞳を見ていると、その瞬間。
頭の中で何かのスイッチが入った気がした。
――ワールドフレーム強制起動。
――リンク接続、from プロネア
そうして視界が暗転した。




