謎の屋敷 3
「ここはゲームデータと元々の異世界、二つが混ざり合った世界なんです」
プロネアはそう切り出した。
「ですからゲームのモンスターや、魔法が出てくるんですよ」
「そういえば……」
この屋敷に来る前に出会ったモンスター。
あいつは確か……
ふいに記憶が蘇り、あのときの出来事がフラッシュバックする。
――オーヴェミウス。
そう、あいつはゲームに登場していたモンスターだった。
獣種の中でも上位の相手で、攻略推奨レベルは60。
どうにか一体だけは倒したのだけど……
仲間を呼ばれて囲まれて、死にかけたところをプロネアに助けてもらったんだ。
「思い出してきたようですね」
「う、うん。少しだけ。でも、まだ途中の記憶が抜けてるみたい……」
「おそらく脳に負荷がかかり過ぎた後遺症でしょう。追い込まれたあの状況で、いきなりワールドフレームを起動させたのですから無理もありません」
「ワールドフレーム?」
「クトリール様のユニークスキルですよ」
そういえば、以前の俺はステータスを見れたんだよな。
かつて思い出した記憶を、再びたぐり寄せる。
――スキル詳細、ワールドフレーム
:この世界と同等の力を持つスキル拡張型フレームです。
そうだ。
こんな感じのスキルだった。
「ワールドフレームは、この世界で最強とも言える能力なんですよ」
「へー、まったく実感はないけど」
「使いこなせていないのですから、当然です」
ふむ、そんなものか。
そう言われれば、納得できる。
とはいえ、使いこなそうという気持ちにはならないけど。
「プロネア。どんなにすごいスキルであったとしても、俺の目的は元の世界に帰ることなんだよ。それに役立たないスキルならいらないかな」
俺は異世界での最強よりも、元の世界でエンジニアになりたいんだよ。
最先端の科学技術を求めてるんです!
「ふふっ、クトリール様。どうしてワールドフレームが最強なのか。その理由を知れば、そんなことも言えなくなりますよ。なにせこのスキルは、世界の片割れとしての業を背負っているのですから」
「ど、どういうこと」
脅かすようなこと、言わないで欲しい。
「そもそも、どうしてこの異世界はゲームのデータと混ざり合ってしまったのか。ということですよ。心当たりがありますよね。あのフェンネスを持ち込んだクトリール様でしたら」
「……うん、あるよ。心当たり」
なんとなくな。
少し前に、自分でもそれに思い至ったような気さえする。
――『アプリ間情報互換システム』
フェンネスに保存されていた特殊なデータ。
それがどういうわけか、この異世界に作用したらしい。
おかげでこの世界は、ゲームの電子情報を取り込んでしまった。
結果だけみると、そういうことになる。
「そうです。クトリール様がお察しの通り。この世界はフェンネスが原因で、ゲーム風の異世界に変わってしまったんです。とはいえ、クトリール様が悪いわけではありません」
「どうして。俺がプログラムを作ったから、こんな状況が生まれたんだろ」
「それが違うんですよね」
彼女は俺の言葉を否定すると、優しく語り始めた。
「いいですか、ただの電子情報に過ぎないプログラムが世界を変えるなんて、普通に考えればあり得ないですよね。ですけどひと手間加えれば、それは可能になるのかもしれません。私が魔法を電子情報化したように、何者かが電子情報を魔法化したと考えるのが妥当です。つまり、クトリール様は何者かの手によって異世界に呼ばれ、そのデータを悪用されたわけです」
なるほど、俺はただその運び屋として利用されたわけか。
でもこれって……
「ねぇ、プロネア。つまりこの話からすると、帰る方法はあるってことになるよな」
「そうですね。理論的には逆のプロセスを再現できれば帰れるはずです」
「それはプロネアでもできるよね」
「分かりません。異世界に召喚なんて、まるで理論が見えませんから」
さすがにプロネアでも、データがない技術は学習できないらしい。
そうなると、俺をこの世界に呼んだ犯人を見つけるのが早いだろう。
理論さえ分かれば、プロネアが解析して学習してくれるはず。
「だったら、さっそく見つけに行くよ」
「えっ、今話を聞いたばかりなのに、あてはあるんですか!?」
「ない。だから冒険者ギルドに情報提供を呼びかけよう」
ゲームの世界が混ざってるなら、ギルドくらいあるだろ。
「それはいいですけど、報酬のお金やアイテムは用意できるんですか」
「あいにく手持ちはない。プロネアは?」
「私ですか。えーっと、多少のお金ならありますけど……」
彼女は上目づかいで、心配そうな顔をしている。
あんまり使って欲しくなさそうだ。
たぶん生活費とか、手をつけてはいけないお金なんだろう。
「仕方ない。最初は地道に稼ぐか」
「それがいいと思います。ワールドフレームを使いこなす訓練にもなりますし」
「そういえば、これってどんなところが最強のスキルなんだ」
「全てのユニークスキルが習得可能なところですかね」
「えっ!?」
思ったよりも便利そうなスキルだったみたい。




