ギルド 4
俺たちのレベルを確認したクランセラは、
ギルドカードを仕舞うと、俺たちに声をかける。
「やっぱり私が一番レベルが高かったですの。ですから、パーティーリーダーは私が務めますわ。それではこれからダンジョンに行きますけど、準備はもうしてありますの?」
そういえば何もしてないな。
でもプロネアは回復魔法も使えるし、必要ないか。
プロネアの方をちらりと見ても平気そうだし。
「大丈夫。もう準備はしてあるよ」
「そうですの。でも忘れ物があるかもしれませんから、チェックしてあげますわ。見せてみますの」
「えっ、いいよ。大丈夫だって」
「ダメですの。初心者なんですから、言うことを聞きますの」
「わ、分かったよ。プロネア、見せてあげて」
今さら何も準備してないとは言えない。
こうなったら、プロネアがアイテムを揃えてることを祈ろう。
せめて回復アイテムの一つくらいは持ってて。
そう思って彼女の様子を伺うと、プロネアはおもむろに袋を取り出した。
「はい。こちらですね、クトリール様。ランプに薬草、それに包帯と携帯食。あとはロープにタオルと……」
手際よく彼女は、休憩所のテーブルに取り出したアイテムを並べていく。
意外と本格的に用意をしていたらしい。
さすがプロネアだな。
クランセラはそれらを見ていき、何やら頷いている。
「分かりましたわ。こんなもので十分ですの。思ったよりもちゃんと準備が出来てるみたいだったので、安心しましたわ。それでは出発いたしますの」
これでようやく、ダンジョンに向える。
俺たちはギルドを後にした。
そうしてギルドを出たところで、クランセラが先頭に立つ。
「いまからダンジョンに行きますけど、あなたたちは初めてですのよね」
「まあね」
「それにしてはレベルが高かったですの」
「えーっと……それは、街の外から来たからだよ」
「ま、街の外から来ましたの!?」
彼女はそれを聞いて、とても驚いた様子だった。
「そんなに珍しいかな」
「べ、別にそういうことではないですけど、私でも街の外へはその、ま、まだ出たことがなかったですの。だから少し、意外だっただけですわ」
彼女の言葉を受けて、プロネアがそっと教えてくれる。
「平原に出ると、いきなり強いモンスターと出会うかもしれないですからね。この街の人たちはだいたいダンジョンでレベルを上げてから、街の外に出る人が多いんですよ」
「どれくらいのレベルになったら街から出るんだ」
「平均55レベル。だいたいCランクから出始める人が多いです」
「へー、その程度で大型モンスターに勝てるとは思わないけどな」
「いつかは出ないと、ずっと街での生活になりますからね。確かにそういう人もいますが、冒険者は出て行く人も多いですよ。この街のダンジョンは数百年、未攻略のままですから。手早く功績を上げたいなら、もっと簡単なダンジョンを目指した方が早いんです。だいたいの人がこの街のダンジョンのことを、強くなるまでの訓練用のダンジョンと見てるんです。本当はすごいダンジョンなんですけどね」
そんな会話をしていると、前にいるクランセラが声を掛けてくる。
「ほら、ダンジョンはこっちですの!」
「ごめん、ごめん。いま行く」
そうして3人で街を歩いていき、賑わった通りに出る。
「ここらへんで武器とかも売ってますけど、ちゃんと持ってますの?」
「大丈夫。俺は剣を持ってるし、プロネアは……」
「私は基本的に素手で戦います」
「そうだったっけ?」
「はい。素手で十分です」
そういえば大型モンスターも素手で倒してたもんな。
魔法が使えるなら武器なんていらないか。
「確かにプロネアさんのギルドカードには、ジョブの項目のところが格闘家と書いてありましたの」
俺の知ってる彼女のステータスには、そんな情報は載っていない。
もしかしてプロネアは、ギルドカードを書き換えてるのか。
電子的に情報を操作できるなら、それも可能ってこと?
どうなんだろうな……
プロネアとクランセラが二人で話している間、俺は一人で考え込んでいた。
そうして歩いていると、やがて声をかけられる。
「着きましたの!」
あれ、まだ街の中だけど、もうダンジョンなの。
顔を上げると、確かにダンジョンの入り口らしきものが見える。
大きめの広場の中に洞窟の入り口があり、
そこで門番がしっかり出入りを見張っていた。
「ディナエルスのダンジョンは、街の中にあるのが特徴的なんですよ」
「その通りですわ。プロネアさんはいろんなことを知ってますの。まるでずっと昔から冒険者をやっていたようですの。冒険者でもないのに、どうしてですの?」
「えへへ、いろいろ勝手に学習しちゃいますからね。自然と覚えてるだけですよ」
「すごいですの!」
クランセラよ、プロネアの頭のよさは反則だからな。
人工知能としての自動学習能力が残っているのか、
未だに物覚えがいいのだろう。
そんなの比べたら、俺でも嫌になる。
「ともかく、ダンジョンに入ろう」
女の子二人が盛り上がると長くなりそうなので、冷静に促した。




