ギルド 3
休憩所に移動中、プロネアが話しかけてくる。
「休憩所は、待ち合わせによく使われてたりするんですよ。簡単な食事やアイテムも売ってますからね。冒険者の間ではお昼は休憩所、夜は酒場という使い分けが一般的でしょうか」
なるほど。
休憩所というのは、そういう施設なのか。
俺はなんとなくの想像をしてから、今度は別の質問をプロネアにしてみた。
「ところでさ。プロネアはどうしてあんな条件を出したの。急成長中の冒険者だなんて、メンバーを募集するにしても変な条件だよね」
「ふふっ。それはユニークスキルを狙って、条件を絞ったんですよ」
「えっ、どういうこと?」
聞き返すと、プロネアは得意げに説明し始める。
「ゲームデータからユニークスキルが生まれるという話は、既に何度かお話ししましたよね」
「うん。朝にも聞いたかな」
「それをもう少し詳しく言いますと、この世界にはゲームデータを体に宿して生まれる人が稀にいるんです。割合にして1%以下ですけどね、それがユニークスキル保有者です。ただし本人は自分がそんな特別なスキルを持っているなんて、気づずに暮らしている場合がほとんどです。なにしろこの世界の人は、自分でステータスを確認できませんから。さらに言いいますと、才能と適性がなければユニークスキルは発現しないという特性も影響しているのでしょう」
「確かにプロネアのユニークスキルは、プロネアにぴったりだもんな」
彼女の説明で言うなら、例えばアナライズ/カリキュレート。
これは高度な計算を必要とするスキルだし、プロネアの頭脳があって初めて発現したものだろう。
さらにアイテムボックスも、プロネアの仮想空間ストレージがあればこそか。
「そういうことです。ですからゲームデータと才能と適性が適合したときに、ユニークスキルは初めて使えるんですよ。そして一度それを発現させた冒険者は、いきなり急成長することが多いわけです」
「それであんな条件を出したんだ」
「はい。ユニークスキルを持ってる人を見つければ、クトリール様もコピーして使えますから」
「レベルアップもできるしな」
「そうですね。それにユニークスキル保有者は強力な戦力になるので、出来る限りは仲間にしておいた方がいいでしょう。これからのことを考えると、戦力はたくさん集めておきたいですから」
「これからのこと?」
「元の世界に帰るまでってことですよ。この世界には魔王もいますし、戦争もありますから。さすがに私たち二人だけでは状況によって、対応しきれないこともあるでしょう」
「えぇー、そうなんだ……」
身分制度だけでも厳しい世界と思ったのに、魔王とか戦争とかまであるのかよ。
俺は憂鬱な気持ちになって、ギルドの廊下を歩いて行く。
「ほら、あそこが休憩所ですよ。ちょうど、あの子がそうじゃないでしょうか」
確かに金髪のツインテールをした少女が座っているな。
念のためアリゼレートを使ってみるか。
ステータスを確認する。
ネーム:クランセラ
レベル:27
種族:ヒューマン
ジョブ:戦士
スキル:無垢なる剣太刀、
剣技(レベル4)、
罠解除(レベル2)、
鑑定(レベル2)、
警戒(レベル4)
彼女がクランセラで間違いないようだ。
しかもプロネアの予想通り、ユニークスキルを持っていた。
俺たちは彼女に近づき、声を掛ける。
「クランセラちゃんだよね、ギルドの人から紹介されたクトリールだよ」
「はじめまして。プロネアです、よろしくお願いしますね」
俺たちが自己紹介をすると彼女は立ち上がり、こちらを見つめてきた。
見た目は俺たちよりも、すこし年下に見えるかな。
でも美少女には違いない。
「クランセラですの。Dランク冒険者ですわ。あなたたちは、今日登録したばかりの初心者だとギルドの方から聞いていますの。仕方がないので、面倒を見て上げますわ。ですけど私の取り分が6割で、あなたたちが4割ですの。嫌ならパーティーを組みませんの」
えぇー、でも4割ってかなり少ないよね。
初心者だから仕方ないのかな。
俺が考えている間にも、隣のプロネアがさっさと返事をする。
「はい。構いませんよ、クランセラちゃん。よろしくお願いしますね」
「分かりましたの。それではギルドカードを確認し合いますわ。これは初めてメンバーを組む人たち同士が、お互いのレベルや功績、犯罪行為の有無を知るための行為ですの」
なるほどな。
俺はギルドカードを取り出して確認する。
確かにどういう原理か、自分のレベルやランクが書いてあった。
とりあえずそれを彼女に見せてみる。
「クトリールさんがレベル29で、プロネアさんがレベル25ですわね。意外とレベルが高いのですわ。これでしたら、攻略もそこそこ楽に進められそうですの」
えっ、プロネアのレベルは284のはずだけど……
彼女の方を見ると、優しそうな微笑を浮かべていた。
……これは、絶対に何か細工をしたに違いない。




