特訓編 3
「クトリール様、クトリール様っ!」
プロネアに起こされて、目を覚ます。
「えへへ、すみません。あちらの世界に置き去りにしてきちゃいました」
「まったく、どうやって戻ろうかと思ってたぞ」
「本当は自力で戻れるんですけどね。クトリール様ももう少し慣れたら、勝手が分かると思います。あっ、ちなみにメニューはこちらの現実世界でも使えるので、是非とも活用して下さい」
ためしに指先で中空を、トントンと叩いてみる。
するとメニュー画面が表示された。
おっ、本当に出てきたぞ。
「これでいつでもステータスを確認できますね。それでは区切りもいいですし、そろそろ、お昼休みにしましょうか。しっかり食べて午後に備えないとですね」
「もしかして、お昼休みのあとも訓練なの?」
「当然です。まだほんの少し、レベルアップしただけじゃないですか」
「他にもスキルだって習得したよ」
「私が差し上げたスキルじゃないですか」
「で、でも、ちゃんと覚えたし」
「それだって使いこなすには、訓練が必要だと思いますよ」
「大丈夫だよ、スキルの能力だって知ってるし」
その言葉にプロネアがピクりと、眉を動かした。
「へぇー、先ほどクトリール様が手に入れたスキル。確かに元を辿ればゲームデータの保有者であるクトリール様のものです。能力もゲームをご存知であれば、分かることもあるでしょう。ですが、だからと言って、いきなり使いこなせると?」
「う、うん。そうだよ」
ちょっと勢いよく啖呵を切り過ぎたかも。
でも訓練なんて、もうしたくないし。
「分かりました。マスターであるクトリール様がそうおっしゃるのであれば、私としても無視はできません。予定を変更をして、これから卒業テストとします」
「えっ、お昼休みは!?」
「クトリール様には差し上げません!」
そう言うと、プロネアは詠唱を唱え始めた。
最初から魔法攻撃を仕掛けるつもりか!?
でも俺だって、自信がないわけでもない。
これでもかつでは廃ゲーマーだったんだ。
スキルの能力さえ把握してしまえば、勝機だってあると思うんだよね。
ふぅ……
呼吸を整えて、こちらも魔法を迎え撃つ。
――ワールドフレーム、起動。
感覚に任せてスキルを発動させると、全身から熱を感じる。
それが爆発的に高まると、頭の中で何かが弾けた。
――フォームコンバート/
エディション:スタンダードモード
次の瞬間――
俺は攻撃的な衣装を纏い、右手には長剣を携えていた。
その他にも全身、機械的なパーツが所々についており、武器とも融合している。
見かけだけなら、かなり戦闘的なスタイルだろう。
これがワールドフレームのさらなる能力か。
まさか戦闘形態にもなれるスキルだったなんて。
「な、なんですかそれは。私のアナライズですら能力が見えないなんて」
「ふーん、プロネアでも見抜けないんだ」
「すごいです、クトリール様。とはいえ、この魔法で倒れたら不合格ですよ!」
プロネアは手をかざし、氷の塊を放ってきた。
それと同時に、こちらもスキルを重ねる。
習得したばかりだけど、このくらいなら使いこなしてみせるさ。
――アナライズ/カリキュレート
スキルを発動させると、空中に解析結果が表示された。
予測速度、171m/秒
推定質量、8700グラム
弾道予測――
危険範囲予測――
被弾時予測被害、即死。生存率0%――
そ、即死って……
プロネアちゃん!?
この魔法、ちょっと危険すぎないですか。
まあ、弾道が予測できているので当たらないですけど。
俺は全力で走りながら魔法を躱すと、そのままプロネアへと駆け寄った。
そして投げ飛ばそうとするが――
「クトリール様、私は体術も得意なんですよ。家庭学習というやつで」
それって、ただアプリをインストールしてただけだろ。
人工知能の学習能力は反則すぎる……
――ドンッ!
考えているのも束の間、俺は地面に叩きつけられた。
「ふふっ。やっぱりまだまだ訓練は必要なようですね、クトリール様。でも、すごかったですよ。私もすこし焦りました。これならダンジョンに入っても大丈夫でしょう。卒業テストは合格です」
なにはともあれ、訓練からは解放されたらしい。
「それではクトリール様、訓練は第二段階へ移行です。ギルドへ行きますよ」
「えっ、訓練は終わりなのでは……」
「はい。基礎は終わりですよ。次からはもう少し、実用的なことをしましょうね」
今のって、ただ基礎をクリアしただけなのか。
騙されたかも……




