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嘘の話

作者: ohrumm

 今私の四肢は、その体の中心すなわち心臓から離れる方向へ、少しずつもげています


 その力とは凄まじいもので、完全に身体から分離した後、重力にも負けずふわふわと放射状に飛んで行ってしまいそうです


 その現象の裏付けとして、今私とその胴体、四肢は一体となりモモンガみたく大の字となって、少しずつ、少しずつ、地表から身体ごと剥がれて行きます


 当然四肢はもげる方へ運動をしているわけですから、完全にもげてしまっては、浮力を持たない胴体は地面へと吸いつくように落下してしまうでしょう


 でもそれでいい、それでいいのです


 四肢が胴体から離れたがっているのと同様に、きっと胴体の方も地面へ少しでも近付きたいのでしょうから


 でも、胴体も四肢も、私すなわち頭にそれぞれのエゴについて思索されていることに気づいてほしいものです


 手のうちの一本は私に話しかけます、私の思考に反抗しているかのように


 その内容が手にしかわからない言語で語られていることを除いて、それは全く反抗に違いはありません


 私は私しか解せない言葉で、その反抗に反抗します


 あなた方はそのエゴを守ればよいのです、と


 私は五体のうち唯一、胴体から離れる方向でもげるなどということはしていません


 やがて四肢は完全にもげ切り、胴体のエゴは私を巻き込みます


 胴体さんよ、あなたに私のエゴを教えて差し上げます


 私はその場でとどまり、胴体は私にぶら下がります


 そのエゴに、私を巻き込まないでください


 質量の大きい胴体は、空中にとどまり続ける私から次第にもげてゆき、おもむろに離れました


 胴体は、そうして自らのエゴを押し通したのです、それでよいのです


 私はといえば、今もこうして、四肢と胴体がかつてその場所にあったように


 ”その場所”にとどまっています


 考えを巡らせる実態のない今、私はエゴについて考えます


 エゴというのは主に何かを引き剥がします


 エゴを嫌うものもいますが、私はそうは思いません


 引き剥がされ、ありのままに動けばよいのです


 ただ、覚えておいて欲しいのです


 主にエゴは引き剥がしますが、また別のところでエゴはつなぎとめます


 それは、つなぎとめたいと思うエゴこそ、この世で最も厄介なものであるということです


 そう、ふと下界を見下ろすと、そこは最も厄介なものであふれています


 つなぎとめられた肢体が、互いをつなぎとめたがる図


 その厄介この上ない構図から投げ出された私たちは、ある意味では幸せなのかもしれないのです


 今日も私は考えます、全く孤独に身を委ねて



 以上、全てが嘘です

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