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第八十四話 平穏な暮らしの思い出

「おそいなー、こないつもりかなー」


「いえ、必ず来ますよ。ああいうヤカラは、舐められたら仕舞いですからね。必ず五、六人で報復に来ます」


 俺と柳川は自転車で逃げた奴が、仲間を連れてくるのを待っていた。

 あたりがすっかり暗くなったので、ミスリル製の明かりであたりを照らした。

 なかなか戻ってこないので、クザンに見張りを任し眠る事にした。

 正確には眠る振りをした。

 そうしないと柳川が眠れないからだ。


 結局、夜が明けてしまった。

 朝食は、目玉焼きとキャベツの千切り、わかめの味噌汁、つかまえた見張りにも出してやった。


「こ、こんな、朝飯らしい朝飯は久しぶりだーー」


 ようやく見張りが、口を開いた。

 なんだか、遠くを見るような目をしている。

 隕石騒ぎの前の、平穏な暮らしでも思い出しているのだろうか。

 そして、また涙を流している。


 荒廃した世界では、こんな事でも感動できるようだ。

 俺たちが、飯を済ますと、人影がゆっくり近づいてくる。

 朝日に照らされた、ヤカラ共はオレンジと黒のシルエットで、長い影を引きずり、肩をいからせ手には何か持っている。


「うっ、十五人いますね」


 柳川は読みが外れて、少し焦っている。

 どうやら、ヤカラ共は本拠地まで行き、人数をそろえ武器まで用意してきたようだ。


「どうりで時間がかかるはずだ」


「どうしますか」


「ほら」


 俺は、柳川にミスリルの棒を渡した。

 これには、冷却魔法と空気魔法が付与してある。


「何ですか、これは」


「お守りです。首からぶら下げてください」


 怪訝な顔をして、でも素直に首にぶら下げた。


「それで、どうするのですか」


「うむ、柳川さんがけがをするといけません。アンナメーダーマンに変身して下さい」


「お、俺が」


「変身の仕方は分かりますよね」


「は、はぁ。でもそんな事をしたら、大田さんが変身出来なくなります」


「あーはっはっはっ、実はな俺は変身して、本気を出すとクザンを壊してしまう。まあ要するに変身しない方が強いんだ」


「はあぁぁーーーーっ!!」


 柳川があきれているようだ。


「とにかく変身だ!」


「はっ!! アンナメーダーー!!! オイサスト、シュヴァイン!!」 


 柳川は、頭が良いなー。

 いらん所まで憶えている。

 アンナメーダーー!!! は、いらねーーんだよーーー!!。

 まあいいや。


 クザンの体が分かれ、柳川の体を包む。

 だが、俺の時と違って、金色の模様は浮かび上がらなかった。

 あれは、魔力によるもののようだ。


「うおおおーーー! すげーー!! 変身した」


 つかまえた見張りが驚いている。

 柳川は調子にのって、何やらかっこいいポーズを取っている。

 うん、男の子だよねー。おっさんだけど。


「そうか、お守りはこのためだったのですね」


 柳川が気付いた様だ。

 俺は、暑さ寒さも、すでに空気さえも必要としない体だから、クザンにはその調整機能は無い。

 そのため普通の人が中に入る時は、クーラーと空気ボンベが必要なのだ。


「なあ、あんた達。あんた達がいくら強いか知らねえが、あの人はやばい、隊長が来ている。俺たちが取りなしてやるから、謝った方がいい」


「わが名は、正義のアンナメーダーマン!!、悪党ども覚悟しろ!!!!」


 どうやら、柳川さんはやる気のようです。

 なんだか俺のアンナメーダーマンの時よりかっこいい。くそっ!


「柳川さん手加減して下さいね。スーパーパワーがあるのですから」


 俺が忠告すると、アンナメーダーマンはコクリとうなずいた。


「きさまー! 正気か? 武器を持った人間に素手で一人でかかってくるのか。死にてーらしいなー。かまわねーぶちころせーーー!!!」


 悪党らしい台詞で安心しました。

 実は、昨日柳川が、有無を言わさず殴り倒した事に、負い目を感じていました。

 悪党なら万事オッケーです。


 ヤカラ共の武器は、鉄パイプや金属バット、ゴルフクラブで銃は無いようだ。

 持っていたが、度重なる戦闘で、弾を使い切ったのかもしれない。

 柳川はヤカラ共の中に入ると、腕を組んで突っ立ている。


 ヤカラ共はポカスカ殴りつけるが、ダメージを与えられないようだ。

 バットがへこみ、クラブは曲がり、鉄パイプは変形した。


「な、なっ、何なんだ、何なんだてめーは、くそーーっ!!」


 そう言うと、髭面の隊長が、サバイバルナイフを出した。

 あー、そんなので刺されたら死んでしまいますよ。

 まあ、刺さらんでしょうけどね。


「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」


 気合いと共にアンナメーダーマンにサバイバルナイフを突き立てた。


 キン


 サバイバルナイフが折れてしまった。


「ふふふ、さて、もう終わりですか」


 アンナメーダーマンは腕組みをやめ、まわりを見渡した。


「ひっ」


 まわりのヤカラがひるんだ。


 トン


 俺の真似なのだろうか、掌底で目の前のヤカラ共を押した。


「げふっ」


 口から大量のつばきを飛ばし、六メートルほど飛んで倒れた。


「くそーー、こいつは駄目だー。あのデブを人質に取れーー」


「うわーーはっはっはっはーーー」


 アンナメーダーマンが腹を抱えて笑い出した。


「やれーー!!!」


 四人のヤカラが俺に向ってきた。


「やれやれだぜ」


 俺は、素早く四人の胸を軽く押した。

 四人は砲弾の様に吹き飛び二十メートル程飛んだ。

 壁に当たると死んでしまうので、道路の上に転がるように飛ばした。

 平行に勢いよく飛んで、勢いが弱まると自然にアスファルトの上に落ちて転がっていく。

 まあ、たぶん、たいした怪我ではないはずだ。


「すげーー!! 本当に変身したアンナメーダーマンよりつえーー」


 つかまえていた見張りが、目を見開き驚いている。


「なんなんだ、あんた達は」


 アンナメーダーマンは、手下を全部倒し隊長だけ残したようだ。


「ようやく聞いてくれる気になりましたか。私は駿河の商人大田です。落ち着いてお話がしたいのですが、よろしいですか」


「き、聞かせて貰おう」


 髭の隊長が、まだ少しえらそうにしながら言った。

 では、こちらに来て、まずは座って下さい。

 俺は、最初につかまえた見張りの手かせ、足かせも消した。

最後までお読み頂きありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] うーん! こっちが本物のアンナメーダーマンですからねぇ(笑)
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