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第六十話 勝ちどき

 親玉五人の処分が終ると、市民をバリアから一人ずつ身体検査をして外に出した。

 その間に、広場に台が用意され、そこに椅子が置かれた。

 後ろには丸に木の字が書かれた旗が掲揚された。


 市民は外に出されると、お粥が用意され振る舞われた。

 すきっ腹に優しい薄めのお粥である。

 市民はお粥を食べながら、広場で何が行われるのかのぞき見ている。


「殿こちらへ」


 赤い甲冑を着けた、ゲン一家の兵士に案内された。


「はぁーーっ、俺がここに座るのー」


「はっ!!」


 俺が案内されたのは、台の上に用意された椅子だった。

 殿と呼ばれるのは、これまで何度も断ったが、誰も変える気が無いのであきらめた。

 でもこの場所は嫌でしょう。

 まるで、悪の親玉の座るような場所じゃないですか。


「……」


 ゲンとダー、ポン、藤吉が俺の右手に並び、肩をふるわせて笑いをこらえている。

 左には、あずさ、ミサ、坂本さん、愛美ちゃんが並んで、こっちも笑いをこらえている。


「やれやれだぜ!」


 仕方が無いので椅子に座った。

 俺が座ると、迷彩服の男達が赤い鎧のゲンの一家の者に、連れられて俺の前に座らされた。

 全部で二千五百人ほどいて、二百人以上が大けがをしている。


「殿!! これで、全員です」


 赤い鎧の一人が言った。

 俺の前に二千五百人もの迷彩服が並んでいる。

 こっちをにらみ付けている者までいる。

 こえー。

 こんな奴らには、ゲンの方がいいのじゃ無いだろうか。

 そういえば、いつの間に俺はゲンよりえらくなっているんだー?


「てめー、でぶー!! 殺すならさっさと殺せー!!」


 俺が考え込んでいると、罵声を浴びせるものが出て来た。


「くっ、くっ、くっ……」


 それを聞いて笑っている者までいる。

 完全に舐められていますね。

 まあ無理もありません。

 俺は底辺おじさんだから。

 顔も、舐められやすい豚顔ですからね。


「皆さんは、迷彩服を着ていますね。自衛隊の方がいたのでしょうか。国民の生命と財産を守るべき人が、それを奪う側になってしまったんですか?」


 俺はなるべく冷静に、丁寧な言葉で話した。


「うるせー! デブー!!」


「くっくっくっ」


 あまりの態度の悪さに、木田軍の全員から怒りが伝わって来る。


「市民を殺したものは、俺の配下なら死刑だ。だからこの街の市民の安全は保証されている。だが、お前達は市民に平気で銃を向ける。敵に銃を向けることをとがめはしない。だがお前達は日常的に市民に銃を向けている。当然何人も殺しているのだろう。ならば、全員死刑だ」


 俺はゲンの真似をして、なるべく無表情で話した。


「……」


 今度はヤジが出なかった。

 木田軍の全員から少し怒りが和らぐのが伝わってくる。


「だが、悲しいことに今の日本国は、人が滅びそうなくらい少なくなっている。あんたらも悲しいことに日本国民だ。だから、全員命は助ける。その上で三つの選択肢をやる」


 迷彩服がザワザワしている。

 俺は静かになるのを待ってから続けた。


「一つ目は一般市民になる事だ。二つ目は降伏し、木田軍の二等兵として働くこと。そして、その二つの選択肢が嫌なら、木田の領地から出ていくことだ。他所の地で自由にやってくれ。以上だ」


「なっ!?」


 迷彩服の男達が驚いている。


「ゲン、ゲンの配下は、全て二階級特進、伍長とする。これから増える兵士は、新兵として二等兵だ。人に上下はつけたくないけど、兵士だけは別だ。上下がないと指揮系統が保てないからな」


「わかった」


「あと、小田原はゲンがしきってくれ」


「いや、それは断る」


「えっ」


 まさか俺は断られるとは思わなかった。

 嘘だろ何で嫌なんだー?

 まあいいや。

 俺は、ダーに視線を移した。

 ダーはブルブル首を振っている。

 次に視線が来るであろうポンも藤吉も首を振っている。


「まあ、それは後でいいや。ゲンあれがやりたいのだけど……」


「あれ!?」


「ふふふ、やーやーたーとかいうやつ」


「あぁー、兄弟、ちょっと違うぞ、ほーほーぽーだぞ」


「そんな、鳩みたいだったっけなー」


「もしかして、えい、えい、おーですか」


 坂本さんが、言ってくれた。


「それだ!!」


 俺とゲンの声がそろった。


「ゲン、頼む」


「うむ、野郎共ーー!! 俺たちの勝利だーーー!!! エイ! エイ! オーーーー!!!!!」


「エイ! エイ! オーーーーー!!!!!」


 全員が腹から声を上げてくれた。

 まわりがビリビリ震えるほどの声は迫力があった。

 うん、ほーほーぽーで無くてよかった。


 結局、小田原は柳川に任せることになった。

 迷彩服達は千五百人程が兵士を選択し、七百人が市民に、三百人は木田家を嫌い出て行った。

 降伏した迷彩服からの情報で、駿府城址中心にその周辺を清水一家が支配しているという情報を得た。


 どうやら、都心から離れれば離れるほど、人口が多いようだ。

 それが、なんだかうれしかった。

 俺は一度、駿府の様子が知りたくて、密偵として、駿府へ出かけることにした。


 だが、その前に一度マグロ祭りをしなければならない。

 小田原も木田も、マグロは久しぶりのはずだ。

 こうして、二日間、木田領はマグロ祭りを楽しんだ。

 小田原の民が腹一杯のご飯とマグロを食べて非常に喜んでくれた。

 江戸城にもマグロを届けたが、その際、坂本さんと愛美ちゃんは酷く怒られたようだ。しばらく外出禁止だそうだ。


 マグロ祭りが終わると、木田城にゲンを残し、北と東に調査隊が出発。

 小田原は柳川が内政に着手。

 ミサは、しばらく三河に戻り、俺はあずさと駿府へ向った。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひとまずこの地は何とか治まり木田さんはあずさちゃんと次なる地へ! 続きも楽しませていただきます!
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