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エルフ・インフレーション ~終わりなきレベルアップの果てに~  作者: 細川 晃@『女装メイド戦記』新連載
第四章

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革命の予兆10

 王都東、エルトシル帝国との国境付近、上空千メートル。

「うーん。絶景だ……」

 眼前には、レベル一千兆に達すると共に、一切の弱点を克服したウロボロスの一団が地を闊歩し。遥か遠方には、巨大で無慈悲な機械の群れと、空中に浮かぶ島の如き飛行空母が十機。そして空母の周囲では直掩であろう、何百機もの無人戦闘機が一糸乱れぬ隊列飛行を続けている。

 そして背後には、死守せねばならない故郷。漆黒の魔力障壁によって覆い隠された王都トートスがある。


 そんな光景を前にしても、ウルクナルの心はかすかな高揚を感じるばかりで、実戦直前とは思えないほどに穏やかであった。

「――ウルクナル様」

 そんなウルクナルの背後に突如として現れたのは、黒色の甲冑に身を包んだ三名のエルフリード戦闘員だった。

「様は付けなくていいって言ってるのに。――何?」

「バルク先生に、あなた様の直掩につけと命令されました。戦場のどこへでもお供いたします」

「……バルクは心配性だなー」


 彼らは、バルクが指揮するエルフリード隊の中でも選りすぐりの存在で。バルクや、コリン、ジェシカなどの隊長格を除けば、その戦闘能力は隊のトップに名を連ねる。

 将来、エルフリード隊の規模が拡張されたならば、必ずや彼らが新設された部隊の隊長に就任することになる。そういった傑物達だ。

「君達は来なくていいよ、一人の方が楽なんだ。それに俺と一緒に来ると、他の隊より何倍も危険だよ? レベルが一番高い敵集団のど真中に斬り込んで、引っ掻きまわすのが今回の俺の役割なんだ。つまり、あのウロボロスっていうレベル一千兆の化物の敵意を、一身に受け止める役目」

「――覚悟の上です」


「……今の君達のレベルだと、一発でも当たったら即死だよ? その鎧も意味ないからね?」

 彼ら三人が纏っている鎧は、未踏破エリアの最奥に生息していたドラゴン種の頂点、レベル百万の、エンペラードラゴンの鱗を溶かして鋳造した鎧である。その硬度と靭性は魔物鉄ホワイトドラゴンを主体とした合金を遥かに凌ぐ。

 希少価値が高く、現状では数が揃えられない為、エルフリード隊の正式装備とされてはいないのだ。

 その希少な金属をふんだんに用いた鎧で全身を固めているこの三名は、金属の希少性に見合うだけの能力を有しているのだろう。

 だが、ガダルニアが対エルフリード用に生み出したウロボロスの前では、魔物鉄エンペラードラゴンの鎧など、意味がない。そして生半可な魔力障壁では、これも鎧と同じく無に等しいのだろう。

 そういう事実をふまえ、ウルクナルは半分脅すように言ったのだが。

「承知しています」


「……そう」

 彼らは、バルクに言い付けられたからではなく、全てを納得した上で、ウルクナルの戦いに同行したいらしい。ここまで言われてしまっては、もう何を言おうと彼らは引かないだろう。

「わかった。同行を許可する。気が済むまでついてくればいいさ」

 ――戦端は開かれた。

 ウルクナルは、直掩の三名など気にも留めず、最大加速で空を飛ぶ。

 ソニックブームの円形の雲を置き去りにし、一直線に戦場の劫火へと飛び込んだ。

「おお! すげえ!」

 ウロボロスの体内で練り上げられていく魔力を肌で感じ取ったウルクナルは、おもわず感嘆し、この上なく上機嫌になった。この化物を殺した時、自分はどんな化物に成長するのか、楽しみで仕方がない。

 お試しとばかりに、自身の一割の魔力を指先に収束して撃ち出すも、巨体の前進を留める程度でしかない。ウロボロスの魔力障壁を貫くには、込める魔力量が二桁は足りていないようだ。

「……かたい。これを貫くにはもう少し工夫が必要だな」


 予想していたことだが、一体目のウロボロスを打ち倒すことが、この戦いの最大の難所であるらしい。

 ウルクナルは、貯蔵魔力量比で一パーセント未満の魔力を手のひらから次々に発射し、ウロボロスの敵意を引き付ける。この魔物には低い知能しか具わっていないようだ、思惑通り、攻撃してきたウルクナルを標的と定め、執拗に攻撃を繰り出してきた。魔物より放たれた赤く輝く無数の光線が、ウルクナルを猛追する。

 両足に魔力で形作るのは、音速の百倍で飛行可能な双発エンジン。

 空中での姿勢制御の為のバーニア六基。

 それらを駆使して大空を自由自在に飛び回り、ウロボロス五十体による集中攻撃を紙一重で交わしながら、ウルクナルはこの難敵をどのように斃すかと思考する。


 ウロボロスが放つ光弾や光線は、例えウルクナルでも当たれば即死する威力がある。

 ウルクナルの卓越した回避運動はもはや、未来予測の域にまで片足を踏み込んでおり、彼を標的として定めたウロボロスが七十体にまで膨れ上がり、どれだけ執拗に攻撃を加えようとも、決して『彼には』攻撃が当たることはなかった。

「やっぱり、レベルを上げないと厳しいか」

 十分ばかり回避運動を続け、隙を見つけては攻撃するも障壁に阻まれる。

 ようやく、自分のレベルが圧倒的に足りないことに気付いたウルクナルは、レベル的にも手ごろな装甲機械兵を蹴散らし、能力向上を図ろうとしたが、そうなればウロボロス七十体分の破壊が、戦場を蹂躙するのは明白だ。


「三人共、ちょっと頼みごとがあるんだけどさ」

 邪魔だからとポケットに入れていた通信端末を取り出し、自分の直掩となった三人に話かける。

「みんなー?」

 だが、返事は帰ってこない。

 直掩部隊が、十分前に地上から完全消滅していたことをウルクナルが理解するまで、今しばらくの時間が必要だった。


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