表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフ・インフレーション ~終わりなきレベルアップの果てに~  作者: 細川 晃@『女装メイド戦記』新連載
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/147

ビッグバン22

 

 翌日早朝。抜き身の剣や杖を持った黒衣の集団が、山頂へ黙々と歩みを進めていた。人数は前回から一名減って七名。今回の彼らは、前回以上に濃い殺気を発し、油断は微塵もない。その証拠に、彼らの手に握られている武器、そして防具は、ドラゴンの素材などで製造された一流の品で固められている。


 可能な限り万全の体勢で、ある一人のエルフを殺すべく、彼らは山頂を目指す。


 ウルクナルが寝泊まりしていた洞窟のやや下方で立ち止まった刺客達は、射線に入らぬよう横一列に並ぶ。既に、増魔力剤を四錠服用済み。ある者は詠唱を開始し、ある者は剣を天に向ける。


 皆一様に、込められうる最大の魔力をこの一撃に乗せた。


 解き放つ。一撃一撃が城一つを粉砕するだけの威力を誇る魔法、そして斬撃。七つの城を同時に瓦礫の山へと変える攻撃を受け、洞窟は山頂ごと吹き飛んだ。濛々とした白煙が立ち上り、山の標高が低くなった。


 これで、終了、終わり。目標だったエルフは死に、自分達はこれまで通りの悠々自適な生活を送れる。陰気で窮屈な暗殺とは当面の間オサラバだ。今後数年は、自由で、尊敬され、なお且つ金になる魔物相手の闘いに専念できるだろう。残りの作業は、念の為に水系統の中級魔法を行使し、周囲に生態反応があるかどうかを探るのみである。


 雇い主は神経質で厳しい、この水系統魔法による索敵は絶対に欠かせない作業なのだ。


「水よ、我に伝えたまえ」

 唯一の女性SSSランク冒険者にして、唯一の女性魔導師である彼女が、杖を用いて詠唱。空気中に漂う水蒸気を利用し、広範囲からデータを収集し解析する。生物の有無から、地形、温度、魔力の有無に至るまでの情報が一挙に得られるのだ。


 ただ、この魔法は完了するまでに時間が掛かる。十秒、二十秒と経過する毎に殺意は薄れ、冷却されていく。ふと、依然として残り続ける土煙の向こうに、揺らぐものを見た気がした。


「ぎゃああああああ――――」

 突如、女性の断末魔のような絶叫が山脈に木霊する。


「どうしたッ!? おい、確りしろッ!」

 見れば、紅一点の女魔法使いが錯乱している。冷静沈着なことで有名な彼女が取り乱し、山頂に背を向け、腰を抜かしたのか這いながら逃げようとしていた。一人が彼女に抱き付き呼び掛けるが。長年愛用していたはずの杖すら投げ出して、振り解こうと喚き散らしている。


 かつて経験したことのない悪寒が背筋を貫いた。

 足元に目を落とす、見覚えのある鱗が無数に転がっていた。ワイバーンのものである。それだけではない。シルバーウルフの毛皮、ビッグフットの頭や腕。我々はモンスター塚でも掘り返してしまったのかと思う程の、残骸。魔物の死体の山だ。


 合点した。どおりで、道中、一匹も魔物に出会わなかった訳である。この魔物犇めくドラゴン山脈。その三時間の登山行程において、一度も魔物と出会わない確率となれば天文学的なゼロの羅列を目にするだろう。ヤツがこの山の魔物を全て平らげてしまったに違いない。


「――――おはよう」 

 それは、破壊の宣誓であり、再生の予兆であった。


 連続して、永遠に続くはずだった歴史は、たった今完膚無きまでに破壊され、無に、砂に還ったのである。その時、未来は白紙に戻ったのだ。


 カビとその胞子に塗れ、腐敗が進んでいた理の幾つかは焼き払われ、新たな理が世界に書き加えられる。新たなる秩序、新たなる理の下に、新たなる世界の種子がこれから芽吹くのだ。

 もう、逃げられない。もう、何もできない。抵抗など全てが無意味、無価値。どうすることも敵わない。


 今なおふてぶてしく鎮座する世界の理に従って、人間とエルフ、両者のヒエラルキーは今、逆転した。レベルという数字が全てを支配するこの世界の理によって、人間は弱者であり、虐げられる者であるという烙印を、今、押されたのだ。


 本物の、本当の怪物が、今、目を覚ましたのである。


「――さようなら、人間」

 朗々たる紺青の閃光が、天を射止め、烈風が山頂を薙ぎ払う。

 後に、武神、銀の戦神と呼ばれ、恐れられ、崇められる存在が、地上に具現したのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ