47.あの別れは何だった…?
あれから。
精霊契約者としての職権を乱用しながら、話し合いの場を設けてテオとの距離を縮めている。第二王子殿下から苦笑いを貰ってしまったが、未だに苦情はこない。
畏まった敬語もやめて今では綾に接するように着飾らない喋りで話しかけている。だからか、気を遣いすぎることが減った。
おかげで普通に婚約者と名乗ってもおかしくないくらいにはお互いの事を知れたんじゃないかなと思う。
世界越えの慣習すべてに納得して馴染んだわけでは決してないが、疑問をその都度尋ねることに遠慮することはなくなった。
これもひとえに綾のおかげだ。
「転移で来れたらええんやけど、苦手なんよなぁ…」
しかし、いつまでもこの国に居られるわけではない。今日は王太子殿下と共に綾が王都を出立する日だ。
日本食に必要な調味料や海産物が海のないミュラ公国では入手が難しい。
そのため滞在期間を延長に延長を重ねていたが、流石にこれ以上はと公国から帰国の催促があったらしく、渋々帰国するのだという雰囲気を綾は隠しもしない。
これには両国関係者が苦笑を堪えきれていなかった。
「気長に待ってるからまたいつでもご飯食べにおいでよ」
「そうする!」
「すぐには無理だけど、私もいつか綾に会いに行くから」
「待っとるけんな!案内したいとこがいっぱいあるんよ!」
「楽しみにしてる!」
馬車に乗り込んだ綾を馬車が見えなくなるまで見送った。
寂しくないと言えば嘘になるけど、友人が居てくれるというだけで嬉しいことに変わりはない。また会いに行けばいいのだから。
「新婚旅行はミュラ公国にするか?」
「こっちにも新婚旅行ってあるんだ」
「セナと私が行くなら外交も兼ねることになるだろう」
「…それは嫌。旅行は旅行で仕事のことなんて考えたくない」
「それはそうだな」
次に逢えるのはきっと私の結婚式だろう。約半年後が待ち遠しい。
と、感傷に浸っていたのだが…。
「早すぎない?まだミュラ公国にすら入ってないでしょ」
一週間後に何の先振れもなく転移魔法で綾が遊びに来た。
何もない空間からいい笑顔の綾と王太子殿下が現れた時はソファーから転げ落ちるくらいに驚いた。
過剰なリアクションを取ったせいで護衛の騎士さんが剣を向けてしまって正体に気づいて顔を青褪めさせたり、メイドさんがパニックを起こしたり、騒ぎを聞きつけたテオ率いる騎士さんと筆頭魔法士さんの混合部隊が流れ込んできたりと事を大きくしてカオスを作り出してしまった。
最終的に第二王子殿下が登場してその場を収めてくれて事なきを得たけれど、本当に申し訳ない事をしてしまった。
「和食が食べたくなってなぁ!」
「…次からはもう少し普通に来てよ?」
「これほどの騒ぎになるとは思わず…申し訳ない」
「いえ…綾が駄々を捏ねたのでしょうから、気にしないで下さい」
「…本当に申し訳ない」
王太子殿下が眉尻を下げて謝罪をして、元凶は笑っている。
色っぽい人というのは第一印象だけでその実、綾に振り回される被害者なのだろう。苦労性が滲み出ていた。
「来てもらって申し訳ないけど、今からは作れないわ」
「何でえ?!」
「当たり前でしょ?厨房は昼食の準備に忙しいのにアポもなく借りれないよ」
「ええぇそんなぁ~…」
和食の口になっているのだろう。すっごく落ち込んで項垂れている。
でも、料理人さん達に迷惑を掛けることは出来ないのだ。作業の遅れが王族の方々のスケジュールにも影響するから。
「ビクトール王太子殿下。目新しい異世界の料理を御馳走することは出来ませんが、よろしければ我が国の料理を召し上がっていかれませんか?」
「じゃあお言葉に甘えることにするよ」
「ええ。綾も食べていくでしょ?どうせあっちで食べてくるとか言い残してきたんでしょ」
「その通りで」
「やっぱりですか」
「はい…」
王太子殿下は綾に相当迷惑を被られているようだ。
「うんまあ!」
今日の昼食は照り焼きチキンだった。
醤油をお土産に買ってきてから料理人さん達が試行錯誤して完成させた逸品。もちろん文句の付けようがないくらい美味しい。
昼食に並んだ背景として第二王子殿下から日本食の食レポを聞いた国王陛下や王妃様達が食べたいと要望を出したことで実現したらしい。
「ゆっくり食べなさいよ、もう」
「出来立てを逃したら勿体ないやん!」
「少しくらい気にして」
「オッケー!」
全然届いてないわ。はぁ…。
「照り焼きチキン、とても美味ですね」
「これから異世界の料理も広めていく一環として本日から始められたそうで。言葉を違えてしまい、申し訳ございません」
「いえいえ。セナ様たちの世界の料理を食べる機会に恵まれて感謝してるよ」
「そう言って頂けると助かります」
王太子殿下も綾の食べ方に慣れてきた様子だった。ずっと綾なりに馴染もうと努力して隠して来たんだと思うけど、それをこの場でも発揮して欲しい。
「うまいが、セナが作ったものよりも甘みが少ないな」
テオが隣で舌鼓を打ちながら呟いた。
テオの仕事がある日は必ず昼食を共にしているのだ。王城内にいるのだからと私が誘ったのがきっかけ。私が休みの日は厨房を借りて作る事も多いからわりと楽しみにしているらしい。
「砂糖が貴重で料理に使われることがなかったから甘みが強いと口に合わないんじゃないかしら?」
「確かに。最初は私も驚いた」
「甘い物が苦手だものね」
「最近はそうでもない」
「そうなの?」
「セナの菓子はうまい」
「ありがと」
「ちょっとお?イチャつくんは二人っきりん時にしてや?」
綾がにやけ顔で揶揄ってくる。面白がっているのを隠しもしないのが少しイラっとする。
「そんなんじゃないわ!」
「どやろなぁ?」
「そんな事言う人にはご飯あ~げない」
「ごめんごめん!」
「すぐ謝るくらいならやらなければいいのに」
「それはそれ、これはこれやで!」
綾は言い終えた同時に最後のひと切れにフォークを刺して口に放り込んだ。食後の紅茶を飲んで食休めをしてしっかりおやつまで食べて転移魔法で帰っていった。
そして、その日から週に一回は必ずと言って良い頻度で誰かをお供に訪問して来るようになった。
こうして時々綾が遊びに来るたびにテオはダメ出しをされて肩を落とし、かくいう私も苦言を呈されたことは一度や二度じゃない。諦めるのは簡単だけどその先で後悔するのは自分だと、口酸っぱく言われた。
抜き打ち的に遊びに来ては故郷の料理を堪能し、満足したら私達にアドバイスを落として帰っていく。
最近は日本食目的で来てるんじゃないかと疑いの眼を向けている。
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