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44.揃いも揃ってコミュ症かッ!!!(綾視点)

やってきました!港町!


真冬に来たから海風が強くて冷たい。凍えそうやわ…。


「さっむ~!!!」

「冬だからね」


海風並みに冷たいせっちゃんの言葉に心まで冷えたわ…。


「早う白米探すぞ!」

「おー」


生返事のせっちゃんと無言な婚約者テオドールさん、苦労人感がこびりついてるビクトール様、その後ろを付いて来る護衛さん達。なかなかの大所帯ですごく目立ってる。


ミュラ公国には海がない。真冬の曇天っていう割と最悪な天候でも郷愁の念に駆られるもんやと知った。


港にエンジンが搭載された金属製の船も、何とか丸って日本らしい名前がペイントされた船も、コンクリートの堤防も、ない。

それでも、潮の香りだけは同じ。


「せっちゃんあったー?」

「なーい!」


感傷的になってる合間も米探しをやめない。


日本人の主食。ソウルフード。


最後に口にしたんはもう、何年も前で。

食べられんくなるなんてその頃は思ってもみんかった。


明日も明後日もその次の日も。何も変わらん日常が続くんやと思いこんでた。


あの頃は毎日毎日新しい刺激を求めて気になったことは何でもやってた。それでも満たされんかった。

こっちに来た当初は何もかもが新鮮で好奇心が尽きんかった。



でも、いつからだったか。



好奇心に突き動かされとったんが、懐古に耽りだしたのは。


失った存在の大きさに気づいたんは。




「せっちゃーん!これちゃう?!」


麻袋に詰められた艶のある茶色い粒。

それは日本で見た事ある玄米にそっくりで。


「お米!これお米!」


あたしに再会した時よりもリアクションがいい。

せっちゃんも、故郷の味が恋しかったんやなあ…。


露店の店主に早速声を掛けたせっちゃんが在庫全てのお米を買い占めた。


あたしが思ってたんよりも量が多くて、護衛さんもあたしもせっちゃんも婚約者のテオドールさんも王太子のビクトール様も、全員が玄米が入った麻袋を担いでるのがすんごいシュールで面白い。


「ごめんなさい。テオにまで持たせてしまって…」

「いや、問題ない」

「…なら、いいんだけれど。私達の国ではこれを加工した白米が主食だったから是非カレーをかけて食べて欲しいです。すっごくおいしいからテオも気に入ると思いますよ」

「ああ。楽しみにしている」


あたしのやや前方での婚約者同士の会話。ちょぉっとせっちゃん気ぃ遣い過ぎちゃう?


「…何だか、典型的な政略結婚相手って感じがするな」

「そやね」


ビクトール様が言うんなら相当やなぁ…。そういうんを間近で見て育ってきたはずやし。


「恋愛婚約って情報も嘘だったのかな」


どうなんやろなぁ…?

これは聞き出してみる価値あるわな。



ふっと吐き出した息が白く染まって宙に溶けていった。






お米を入手してから二日経って、今日はせっちゃん主催のお米パーティー


婚約者さんは休みだったんか既に待ってた。

あっちのセシル様とビクトール様は会談中で後から合流する予定。今が絶好のチャンスや。


「テオドールさんはせっちゃんのこと好きなんよな?」

「なんよな…?」


そやったわ。普通に日本語のまんま話してるつもりなんやけど、やっぱ勝手が違うんよな。


どんなふうに聞こえてんねやろ?


「えっと…好きなんですよね?」

「ああ」


…何かなぁ………。


「…その返事、どうなん?じゃなくて。どうなんですか?」

「普通にしていただいて構いません。それでどう、とは?」

「助かるわ、あんがと。それでな?ああだけってなんか、適当に返事されてる気分になるんよ」

「そう、なのか…ご指摘、感謝致します」


これは骨が折れそうやわぁ…。ふと、この場にいないせっちゃんに同情したくなった。

自分が聞いてみたいっていう好奇心で首突っ込んだけど、やめとった方がよかったんちゃうかなと思い始めてる。


この世界に順応する努力を惜しまんかったせっちゃんの、婚約者に納まっただけの人に期待するんも酷ではあるんやろうけど。


「別に人それぞれやけん私はええんやけど、せっちゃんとすれ違ってるんやろ?小さい事でも積み重なれば癪に障るようになってくるもんやん?」

「そう、ですね…」


腑に落ちてないんかな、ちょっと歯切れ悪い感じがしたわ。

歩み寄ってもらわんとどうにもならんのやけど…。


「テオドールさんもせっちゃんのここが嫌い!って部分のひとつやふたつあると思うけど。お互いに言い合わな一生関係改善されんで?」

「…アヤノ様のご指摘通りです」


反省しとんのも改善する気もあるんは分かったんやけど。やっぱ、何かなぁ…。


「堅ったいなぁ…せっちゃんと話する時もそんな感じやけどさ。テオドールさんにとってせっちゃんって信頼できひんの?」

「…申し訳ございませんが、ひんの、とは?」

「信頼できませんか?瀬奈が」

「そんなことはない!」


そこは即答できるんや。

信用勝ち取ってるんならよかったよかった。


「なら心のうち全部ぶちまけたらええやん」

「…」

「分からんかった感じ?情けない所も、かっこ悪い所も、醜い所も。押し込めて隠してきた感情全部、瀬奈に見せたらどうですか?」

「…嫌われないだろうか…?」


捨てられた子犬みたいな目で見られても困るんやけど。

ちょっとこう、グッとくるやん?やめてや。


「今のテオドールさんの方が私は嫌いやね」

「ウッ……」


打ちひしがれてるけど、やっぱプライドがあるんやろか。高位貴族って奴らしいし?何か葛藤してるっぽい。


あたしには関係ないけど。せっちゃんが大事やしね?


「せっちゃんからしたら大変な思いいっぱいしてきてさ、旦那さんにくらい甘えたいって思ってしまうもんちゃう?のに、相手は自分のこと知ろうとしてくれんし、身分差で拒否できんかったやろし、まともに意見言えん空気感はあるし。それでも大事にされてるって、愛されてるって思わせて欲しんちゃうの?」



…これ、良い事言ったんちゃう?


「…その通り、ですね」

「なら、その場限りにせんとしっかり向き合いなよ。分かった?」

「はい」

「こういうのは早い方がええで。分かったら今すぐ行き!」

「今すぐ?!迷惑では…」

「そうやってまた後手後手に回すんやろ!さっさと行動せんかい!」

「承知した!」


駆けていくテオドールさんの後ろ姿を眺める。

いい仕事した感があって清々しいわぁ。


「ホントに世話が焼けるわ~。ヘタレやなぁ…」


改めてテオドールさんと話してみて、外見良ければ何でも許せると言った過去の自分の発言を撤回したくなった。


あたしはもっと…。




「愛されてると。大事にされてるんだと、思いたかったのか。知らなかったよ」


すぐ背後から声がした。

振り向いた視線の先には年齢に不相応な色気を振りまくビクトール様と苦笑交じりのセシル様が居た。



…聞かれちゃマズい人の耳に入った気がしたけど、気のせいやと思っとこ。


席に着いて雑談を始めた二人を余所にテオドールさんの事を思い起こしてあれはあれでありでは…?!と撤回の撤回をする綾乃がいたのだった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!!!

エピソード42の綾乃のセリフ

「ならさ(他の人にしたらええんちゃう?)」

しかし、自分もいろいろ経験する中でどうにもならないことがあったと思い止まりました。それに綾乃には興味がないと言いつつも瀬奈が寂しそうに見えていたので。

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