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36.飛竜の番

その後に森を散策したが、もう一体いるはずの飛竜が姿を現すことはなく、一週間の滞在延長が決定した。


そして、見回りを一層強化するために一個隊の人数を五人から十人まで増員することとなり、駆り出される頻度も単純に倍増した。

一度飛竜が出現したからか浮ついた空気は霧散しており、みんな真剣に使命を全うする。


私は飛竜を討伐した当事者としてその日は当番から外され、遅めの昼食を済ませた後は宿泊先でのんびりとしていた。

精霊契約者だからか、他の人達よりもグレードのいい部屋を用意されていて、大変過ごしやすい。



昼寝をして、読書をして、お菓子を摘まんで。

ここ数週間にはなかった穏やかな午後を満喫した。



ダラダラと過ごす私に呆れてシルフィ様はいつの間にかどこかに行ってしまい、セレーネ様も精霊に導かれてとか何とか言ってこの場には私しかいない。


窓際がほんのり黄金に照らされる頃。そろそろ夕食を摂りに行こうと読みかけの本を切りのいい所までと決めて読み進めていく。


もう少し…もう少し…と延長に延長を重ねたこともあって、気が付けば随分と室内が暗くなっていた。

長時間同じ体勢でいたことで凝り固まった身体を伸びをして解すと、小気味いいパキッポキッとした骨の鳴る音が響いた。


ご飯食べたら続きを読もうと、食後の楽しみに思いを馳せながら扉を開ける。


食堂へ向かう方向の廊下、自身から数メートル先には見慣れた、逞しい背中があった。


「テオ?」

「!セナ。居たのか」


私の呟きを拾ったテオは振り向き、こちらへ踵を返した。


等間隔に灯された光が、沈みかけの夕陽と共に彼を照らす。

秀麗な美貌がとても絵になり、芸術作品を観賞するような気分で見つめた。


「灯りが付いてなかったからもう食事に行ったのかと」

「もしかして誘いに来てくれたのですか?」

「ああ」

「気付けなくてすみません。契約者になってから魔法の威力が変わったようなのでその確認に熱中してしまって…」


嘘だけど。

今の今までずっと飛竜の対応に追われていたであろうテオにダラダラしてました、とは口が裂けても言えない。


「相変わらず勤勉だな」

「いえ、そんなことは…。テオはずっとお仕事を?」

「ああ。昼食を摂る暇もなかったな」


嘘を吐いた末に株が上がった事と何もせず過ごした事への罪悪感から「それは…お疲れ様です」というありきたりな言葉しか言えなかった。






翌日から番の飛竜が毎日目撃されるようになった。

しかし、攻撃を仕掛けるとクルリと反転して飛び去ってしまい、魔法も弓も剣も届かない。


あと少しでという所でいつも躱されることに魔法士達も騎士達も苛立ちを見せており、飛竜が街近くを飛び回っている様子に街民からは不安と不満が上がっていた。

次から次へと苦情や問題が舞い込む状況にテオは睡眠もまともに取ることが出来ず、疲労が蓄積していた。


大丈夫か聞いても問題ないと返ってくるのみ。

このままでは近いうちに倒れるなと思い、早々に元凶を討つことにした。


本当は私の要望に応えるための討伐で、テオ本人にやって欲しいけれども。


倒れて代理に業務委託後、重大なミスでも侵されたら目も当てられないし。

私が討伐しても団長としての評価は上がるだろう。


「シルフィ様。飛竜がどこにいるか分かりますか?」

「無論だ」

「案内して欲しいです」

「良いのか」

「はい」


シルフィ様は鼻で笑って私に背を向け、森奥へと進む。


人の手が入っていない獣道は草木が邪魔をする。

精霊二体は空中を飛び、するすると間をすり抜けていくが、私は魔力温存のために地道に徒歩だ。


森探索経験が殆どない私は地面から飛び出た根っこに足を取られ、葉を肌に掠め、枝が刺さり。

シルフィ様が案内を終える頃にはぼろぼろの姿になっていたのだった。


「大丈夫ですか?傷癒しますわ」


セレーネ様がふんわりと光を煌めかせると痛みが引いていった。

患部を見てみると、切り裂かれた服はそのままだが傷は痕一つ残さず消えていたのだった。


「ありがとうございます。セレーネ様」

「どういたしましてですわ!」

「もう良いか。行くぞ」


シルフィ様が近づくのは、巨大な洞窟の入口。

奥は真っ暗闇で何も見えないが、迷いなく精霊たちは入っていった。


存在自体を覆い潰しそうな闇に恐怖を抱くが、覚悟を決めて一歩踏み出すとセレーネ様本人から光が降り注いでいて場違いにも神々しさが勝る。


傾国の美女に闇を照らす光。


天照大御神か何かかな?と頭に浮かび、恐怖はどこかへと吹っ飛んでいったのだった。


水場が近くにあるのか、水の反響音と微かな飛竜の羽音が聞こえる中を慎重に進んでいく。

結構長く歩いているが、入り組んだ構造をしていて全然奥には辿り着かない。


た、体力が持たないかも…。


「ま、まだぁ…?」

「良かったな。着いたぞ」


帰りのことも考えて問いかけると、シルフィ様が顎で奥を示した。

そちらに魔法のライトを向けると、警戒心を露わに牙を剥く飛竜がいた。


「シルフィ様ぁあぁぁぁっっ!?!?」


絶叫しても仕方ないと思うの…!

前回は何だかんだ防御するくらいの時間的余裕があったから。


しかし、今置かれている自分の状況は開戦の火蓋が既に切って下ろされていた。


「やばいやばいやばいやばいやばいやばい!!!」


出鱈目に風魔法を飛竜に投げつけていく。

もう無我夢中だ。なりふり構わっていられなかったが、限られた空間しかないために飛竜は機動力を生かせず次々に傷を作っていき、勢いを失くしていった。


…意外と、イケる?


私の優勢を理解してからは落ち着きを取り戻すことができ、狙いを定めて。

有効であると実証が取れている闇魔法での拘束を試みて、動きを封じてからは風魔法で一思いに首をスパッと切り落とした。


絶命を確認して死体をアイテムボックスへ収納し、洞窟内を魔法で辺りを光で照らす。

一応卵がないか調べようと思っただけだったのだが。


「三つもある…」


枝が敷かれた巣の中心にはつるりとした三十センチくらいの卵が三個鎮座していた。


ほんの少し前まで街周辺に居なかったのに…。

きっと飛竜たちはただ我が子を孵そうとしていただけで、偶々選んだ巣の近くに人間の街があっただけ。


飛竜に少しの憐れみを感じつつも卵を仕舞い、帰路へと付いた。

週一とか言っておきながら書いて満足して投稿を忘れてました…本当にすみません……<(_ _)>

その代わりと言っては何ですが、明日も投稿しますので…!

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