20.異世界人生最大のショック(令嬢舐めたらアカン)
あれから数日置きくらいの間隔で令嬢達から呼び出しを受けている。
しかも毎回違う人達から。
それぞれはそんなに面倒臭くないんだけど、こう何回もあると流石にイラっとする。
だからあれ以降、テオには何かと理由を付けては朝にお弁当を渡して極力別々に昼食を摂るように工夫している。
傍から見ていれば私が忠告を聞いて彼との関わりを絶ったように映るはずだ。
これで少しずつ噂も私に対する忠告とやらも収まっていくだろう。
おかげで第八魔法省の皆には心配を掛けてしまっている。本当に申し訳ない気持ちになる…。
そして今日もまた食堂で初めて見る令嬢達に呼び出されたので昼食を中断し、後を付いていく。
しかし今回の令嬢達は今までの人達と違って醜悪だった。
彼女たちはいつも聞かされている罵詈雑言よりも口汚く私を罵ってくるだけでなく、何発も平手をかましてくる。
でも、それだけではなかった。
「本当に信じられないわ。これは躾が必要よね?」
いつもしているように従順な態度を取る私を他の令嬢達が抑えつけてきて先程の言葉を放った彼女が乱暴に私の髪を掴んできた。
平手なんかよりも髪を引っ張られる方が遥かに痛い…!
そう思いながらも自分の身分を考えて抵抗せずにされるがままでいた。
ジャキッ
私のすぐ近くで音がしたので前を向くと地面に落ちてくる無数の黒い髪の毛が見えた。
何が起こったのかを理解したくない私は地面に広がった髪を見てただ呆然とすることしか出来なかった。
「ウフフフフフ…!貴方にはお似合いの髪型ですわね!」
「オホホホホ!本当ですわ!良かったですわね!」
「では私達はこれで失礼致しますわ。…これからは分を弁えた行動を心掛ける事です」
好き勝手に捨て台詞を吐いた後彼女達はこの場に私を残して去っていった。
それでも切られて暫くは地面に散らばっている自身の物だった髪を眺めて動けなかった。
この世界では女性の髪はとても大事なもので、長く伸ばしていることが当たり前なのだ。髪の短い者は女性とすら認識してもらえないだけでなく、短い姿を誰かに見られるのは屈辱以外の何物でもない。
それを理解したうえで切ったのだ、彼女達は。
この世界で暮らしてきてこれが一番ショックな出来事だった。
それでも、日本ではショートカットの女性なんて山のようにいるし、私も短いのは初めてじゃない。
大丈夫、大丈夫…………。
そう何度も自分に言い聞かせてバラバラになっている髪を掻き集める。
「…う……ぁ……」
何度自分に思い込ませても、溢れ出てくる涙は止まってくれなかった。
髪が短くなったことがショック過ぎてそのまま家に帰ってきてしまった。
そのままベッドに倒れこんで枕に顔を埋めて声を押し殺す。
伝言もしてないから、今頃皆を心配させていると思う。
けれど今の姿を誰にも見られたくなかった。この世界に来た頃の私だったら短髪なんて何も思わなかったはずなのに。
これからどんな顔をして会えばいいの…?
「おはようございます!」
「おはよう…!?」 「それ…!?」 「…?!」
出来る限り明るく振舞いながら挨拶をしたのだが、第八魔法省の皆は私の髪型を見て絶句している。
昨日あれから吹っ切れて、ショートにまで切ってやった。だからもうこれ以上誰かに切られることもない。
鏡で確認してみたら意外と似合っていて自分で言うのも何だけど仕事の出来るキャリアウーマンみたいだった。
「昨日はそのまま帰ってしまってすみませんでした。…どうですか?似合います?」
「どうって…その…」
省長が言葉を濁しているうえに視線を泳がせていた。
まあ、流石にすぐには受け入れられないよね。ここは日本じゃないし。
「昨日うっかり切ってしまって!流石にそのままでは仕事に集中できないなってことで、寮に戻って思い切ってバッサリいきました!」
「いや……その…」
…この世界ではそんなに受け入れられないんだな、短髪って。
みんなの反応が予想以上に沈んでいて私まで暗くなる。
すると今まで黙っていたユリアさんが勢いよく抱き着いてきた。
いきなりのことに少しよろめいてしまうが、どうにか受け止めることが出来た。
「…ごめんなさい、セナ…!貴方が、嫌がらせを受けてるって、知ってたのに…!何も!何もしてあげられなくて…!…ごめんなさぃ…」
「…そんなこと…!いつも…庇おうとしてくれてたじゃないの…」
嗚咽交じりの彼女の謝罪を聞いてしまったら、私も我慢が出来なかった。
本当は心臓をナイフで刺されているかのような胸の痛みがずっと続いている。
絶対に泣かないと、心配をこれ以上かけないと、決めていたのにぃ…!
「でも!でもぉ…!」
「…ぅ…ぁァ……うぅ…あぁぁ…!!!」
その後二人でひとしきり号泣して昨日何があったのかを全て話した。
完全に仕事を放棄しているけれど、お構いなしに誰もが我が事のように怒ってくれた。
「許せないわ!女性の髪がどれだけ大事か、知ってるくせに…!」
「そうだよねぇ…淑女がやることじゃないよねぇ…」
「…最低」
「…何かしてあげたいけど私じゃ、何の力にもなれないのよね…」
「相手は伯爵家のご令嬢だもんねぇ…」
「…無力…」
「皆さん…ありがとう、ございます」
そう言ってくれるだけで、その気持ちだけで、十分嬉しい。
でも、何の解決にもなっていないのも事実で。
今後虐めがエスカレートしていかないとは限らない。
「…ねえ、テオドール騎士団長様に相談するのはダメなの?」
「そう、ですね…」
それ以外のいい方法が思いつかないけれど、出来る限りこの状態で会いたくない…。
「その格好で騎士棟まで行くのは、酷だと思うよ…。今はどこも噂で持ち切りだから…」
「あ…!そうよね…ごめんなさい」
「いえ…他に出来る事もないですから。気にしないで下さい」
「…騎士団長本人に、噂を否定してもらったら…?」
「そうだよ!付き合ってないならテオドール騎士団長様にそう言ってもらえばいいじゃない!」
「そうだねぇ!そしたら噂もなくなるし、誤解も解けて一石二鳥だよ!」
…それが出来たらいいけれど。
今の私達の関係が恋人同士なのか、はたまたプロポーズされているから婚約者なのか。
自分も分かっていないけれど、彼がそんな簡単に否定してくれる訳ない。
「無理だと、思います。…一応、プロポーズされているので…」
「「「…プロポーズ?!?!」」」
「はい…」
「テオドール騎士団長様に?!」
「はい…」
「プロポーズ?」
「はい…」
「「「…いつ?!」」」
「…えっと、王都に戻る前と、この前…」
「「二回も?!」
「えっと…三回、ですね…アハハ……」
今度は違う意味で絶句させてしまった。
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