どうしようもない理由
ドザエもんを指差して苦い表情をするオリビア。
何せその青い全身タイツを着た男は、自分の軽率な行動で仲間を裏切り我々を危機にさらしたのだ。
その心情も勿論そのはずである。
それに対して俺は、少し説明をしなければならないなと覚悟を決めて話し始めた。
「うん。
まあ、正直言ってこいつが話かけてきた時には良く俺の前に出てこれたもんだなって思ったよ。
なんたってこの男は、俺達を裏切って、ゴブリン達と一緒に俺をこん棒でボコボコにした張本人なんだからな。
あのおかげであまりの痛みと恐怖で俺の心の中にゴブリン恐怖症というどでかいトラウマができちゃった。
だから、この世で一番会いたくない野郎ランキングがあったら間違いなくNo1だったよ。
だけどさ……。だけど俺、聞いちゃたんだ」
怪訝な表情を浮かべたオリビアは俺の方を向いた。そして、俺は続ける。
「ドザエもんにもそうせざるを得ない理由があったらしい。
こいつはどうしよもないクズ野郎かと思ってたんだけど、こんなヤツにも家族がいるって言うんだよ。
おっちょこちょいだけど何故か憎めない奥さんと小学生からまだ幼稚園にも通ってない罪のない子供が五人。それに、ちょっとだけ都会の方に35年の住宅ローンで家を買ってしまったばかりだとか。
家族のためにも今、自分が絶対に死ぬわけにはいかない。子供達を悲しませるわけにはいかない。
裏切らざるおえなかったのは、そう判断しての苦渋の決断。
ゴブリンに紛れて俺をこん棒で殴ってた時も決して表情には出せないけど心では号泣していていたんだって。
第一、ゴブリンに寝返ったように見せたのはただ、そういう振りを装っていただけで始めから裏切っちゃいなかったという。
実際、俺達が逃げた後、ゴブリン達に十分に媚を売って信用させ、熟睡してるところを寝首を掻いて全滅させたんだ。
だからドザエもんはあの時、本当は裏切り者じゃなかったってわけさ」
ここまで俺の代弁を聞いたオリビアは怪訝な顔からさらに渋い表情になり、フウとため息をひとつついてがっかりしたように下を向いた。
すると、今度は顔を上げてとぼけて口笛を吹くドザエもんを厳しい目で射抜いた。
「よくもまあ、そんな事を言えたもんだ。
ゴブリン討伐に行く前日の夜。
お前が何を私に言ったか、まさか忘れちゃいないだろうな?」
するとドザエもんの白塗りの顔がとても青ざめるような気がした。
「あの夜、このドザエもんは私の部屋を尋ねて来た。
何の用かと聞いてみたら、『ボクと結婚して下さい!』っていきなり土下座を始めたのだ。
私は直ぐに結婚する気はないと伝え、それよりもお前は『五等分の婿養子』で結婚しているはずだろうと言った。
すると、このドザエもんは『妻とは別れるし子供もいないから実質、独身です!』って断言したはずなのだが、あれはいったいどういう意味なんだっ!!!」
怒りのオリビアに厳しく問われたドザエもんは、意を決したようにひとつ頷くとこう言った。
「うんっ!!! じゃあ、そこら辺も含めてこっくりさんに聞いてみよう!!!」
次回、『異世界こっくりさん、開幕!!!』




