さらに巨人
水滴が絶えずに落ちる湿った牢獄の中、俺達三人はそれぞれ壁に背をあずけて座っていた。
「はあああああ……」
俺の口から大きなため息が、ひとつ出た。
「あら、ダーリン。どうしたのですか?
ため息なんてついちゃって。
可愛い妻であるわたしのことでも考えてたのでしょうか?」
「ああ、そうだよ。
お前がさっき、余計なことを喋らなければ、今頃客室でまともな飯にありつけていたかもしれないのに」
「そうですよね。
まったくあの者達は、何を考えているのでしょう?
普通、女神が降臨しているのを目の当たりにしたら、膝をついて涙を流してその幸運に感謝するはずなのに。
あっ、まさかここの住人は悪魔信仰の信者なのかもしれませんね。
うん、そうよ。きっと、そうに違いませんわ。
だとしたら、わたしが名乗ったのは失敗だったかもしれません」
いや、突然、自分が神だと言って、崇めるのを強要する者を誰も信じるわきゃない。
俺は、その考えが喉まで出かけたが、強引にグッと飲み込んだ。
「女神さまは、本当にその男と結婚したんですね。
しかし、もしかしたら砂漠の真ん中で、頭が混乱してしまわれていたのではないですか?
今ならまだ、気のせいだったと思い直すこともできると思うのですが……」
未だに俺と女神が結婚したことが腑に落ちないオリビアは、女神を思って心配そうに言う。
「いいえ、私達の愛は本物ですわ。
ダーリンからのアプローチは、ちょっと強引でビックリしましたけど。
もう、一線も越してしまいました。
てへっ(笑)」
顔を赤らめ恥じらう女神に俺は、「おしりを一瞬、触っちゃっただけじゃんか!」と言いかけた。
だがその時、牢屋の並んだ鉄棒の隙間から、薄暗い灯りと何人かの足音が近づいてくるのが分かった。
少しして、牢屋の前に三人の男が現れる。
その内の二人は、特に特徴もないランスを持った守備兵だったが、真ん中の男は一目で尋常じゃないと感じた。
他の二人と比べても1、5倍以上はある巨躯に、鍛え抜かれたであろう隆々とした筋肉。
白髪混じりのその顔は如何にも堅牢な表情で、荒々しい鼻息はこちらまで届きそうな勢いであった。
すると、その大男は薄暗くてよく見えない牢獄の中を見る為に、他のひとりが持っていたロウソクを奪い、前方へ手を伸ばして俺達を光で照らす。
それが手拭い一枚のオリビアを照らし出した時、堅牢な表情はみるみる崩れ、驚愕のそれとなる。
「こっ、これは、オリビア様!
も、申し訳ありません」
男は、片膝をつき、空いている拳を地面に突いて首を垂れた。




