オウムの恩返し2
薄暗闇の中、ボウっと灯ったろうそくの光とともに現れた光景に、俺は驚く。
そこには黒鉛色の無表情の鉄仮面が宙に浮いていたからだ。
いや、正確に言うならば浮かんだように見えているだけなのだが…。
全身に深い黒装束を身にまとい闇に溶け込んで全身が見えず、不気味なアイアン・メイデンの顔だけが目に飛び込んできたのである。
思わず声も出すのも忘れてのけ反った俺にそこから聞こえたのは、やけに耳に残る鼻つまり声だった。
「ようこそ。鉄子の部屋へ」と。
目の前の異様な光景に俺の頭の中では緊急警戒警報が鳴り響き、身体はジリジリとテントの入り口へと逃げるタイミングを計る。
その鉄仮面からは表情を読み取ることは難しかったが、その風貌からは不気味な何かが滲み出ていた。
俺は意を決し外へ出るため一歩を一気に前に出した、その時。
「わたしには緑色のツインテールがよく似合うツンデレの可愛い孫がいます」
鉄子のそれを正確に聞き終わると同時に俺は頭の中で叫んだ。
「加速装置発動っ!!!!!!」
出した前足の踵を返し、逆脚を思い切り踏み込む。一気に方向転換した俺はその勢いのまま鉄子の対面にあった椅子に座り込んた。
「失礼しました。お祖母様。
早速ですが、かわいいお孫さんの写真などお持ちではないでしょうか?」
すると、鉄子はゴソゴソと大きめに盛った髪の中からスマートフォンを取り出して、何度かタップするとその画面を俺の目の前に見せた。
そこには、およそ四十代後半の太った男が写っていた。
「おっさんやないかい!!!!」
「誰も孫娘とは言ってないじゃろう。
むしろ、こんなにツインテールの似合うツンデレ男はそういないと思わないかい?」
「いやいや、緑色のツインテールをしたツンデレのおっさんなんて気持ち悪いだけだから!
ツンデレじゃなくて、周りからの迫害に捻くれちゃっただけだから!!」
「うーん、可愛いと思うんじゃけどなぁ…」
鉄子は、さも残念そうにため息をひとつついた。
俺は落胆してもうこれ以上、ここにいる理由はないと判断して椅子より立ち上がろうとした。
だがその時、怪しく前に乗り出した鉄子の一言にドキリとさせられ、動きを止めた。
鉄子「ところで、あなた。何か悩み事があるわね」




