ファーストパス
昼も夜もない色の薄い世界の中で俺たち三人組+ドザエもんは、ただただ呆然と閻魔大王に続く大行列に並んでいる。
へたり込んで座ることも許されず(←座ると監視しているキャストの鬼に注意される)、一時間に数歩進むだけのこの鈍足行脚は気が狂いそうになるほど過酷な所業であった。
現に、大行列の所々で怒声や悲痛な声をあげる者が何人か現れ始めている。
俺もこの数十時間も続く苦行にいい加減に頭にきて、近くの鬼に苦情を言ってやろうとしたちょうどその時。
「アクエリアス様~!
女神のアクエリアス様~!
こちらにいらっしゃいましぇんか~~~!!!」
行列の前の方から聞こえたその声は、うら若く女性の声であり少し間抜けな印象。
「おいっ! ここだ!
女神アクエリアスさまは、ここにいらっしゃるぞ!!!」
俺の後ろに並んでいた手拭い一枚のオリビアは、片手を上げて大声で答える。
すると行列の前方から沿うようにひとりの女性と見受けられる姿の者がいそいそと早歩きでこちらに向かって来るのが目に入った。
その子は俺たちのいる場所にたどり着くとよほど体力がないのだろうか息切れをしながらこう言ってきた。
「はぁ、はぁ。突然にすみません。
女神さまがこちらに降りてきていると聞きまして、急遽参上させていたらきました。
わひゃくし、閻魔大王の秘書をさせていたらいておりましゅ、地獄大元帥がひとり『パンナ・コッタ』と申しましゅ」
その舌っ足らずのかわいい女の子は、ちんちくりんの巫女姿で、頭にはピンクの髪に二本の小さい角を生やしていた。しかし、とてもじゃないが、地獄大元帥と名乗るような存在とは真逆の存在に見える。
「ええ、わたしが女神のアクエリアスですが、何か御用でしょうか?」
俺の前で大行列に並んでいた女神がそう名乗り出るとこの小さな鬼女の子は少し慌てた様子で応えた。
「あわわわ(汗)
申し訳ございましぇん。
女神さまをこんな俗物たちの行列に並ばせてしまって。
早速ですが、その下男どもと一緒に今すぐわひゃくしに付いてきてくだしゃい。
閻魔大王しゃまがお待ちでしゅ」
すると、パンナはくるりと背中を向けて顔だけをこちらに向けて俺たちが動き出すのを待つ。
女神は一瞬、俺の顔を見てどうするのか伺ってきたようだったので、俺はひとつ頷いてとりあえずこの女の子の言う通りついて行ってみようと答えたのだった。
俺達はパンナ・コッタと名乗る鬼の女子に続いてちっとも進まない行列の傍らをすいすいと歩いて行った。その行為は、自分達が特別な存在になったような優越感と同時に、きちんと真面目に並んで待っている人々に申し訳ない気持ちが湧いて、何とも言い難い心持になった。
「あれ? この気持ち、以前も感じたことがあるぞ……」
俺が自分にこの違和感を確認するかのように呟いてみたら……。
「ああっ!!! キミ達だけずるいぞっ!!!」
行列を無視して足早に進む俺たちに声をかけてきたのは、ハローワーク(ギルド)で受付をしていた黒いネズミの着ぐるみ、ミッチー。
「ボク達は、こうして何時間も真面目に並んでいるのに、何でキミ達はそれを無視して先に進めるのさ?
どんな手を使ったのかは分からないけど、そんな自分達だけ知ってるからって優先的に順番を抜かせるなんて卑怯だと思わないのかい?
何も知らずに並んでいるこのワールドに初めて来る田舎者や孫を連れてきたおじいちゃんおばあちゃんのことを考えたことはあるのかい?」
黒いネズミに言われた俺は、このデジャブがなんであったのか完全に思い出した。
そして、目から涙がちょちょぎれた。




