異世界なのに地獄行き?
「ここは、地獄です」
そう言った女神の言葉はとうてい受け入れられない内容で、俺は頭の中で何回か反芻した。
「いや、まさかそんなこと……。
だって、これは異世界テンプレ生活なんだよ」
「ダーリン、忘れてはいませんか?
地獄も考えようによっては、異世界になりますよ」
俺は、真意を突かれて胸がドキッとした。
すると、女神の胸元から別の声がさらに聞こえた。
「まったく、この男は、相変わらずのアンポンタンですね」
「この機械音声は、オンボロイドAIのシリー。
誰が、顔がアンパンで出来てる正義のミカタやねん。
この歳で愛と勇気だけが友達だったら毎晩、寂し過ぎて枕が涙でびちょびちょになるわっ!」
「はあ~(ため息)
なにと勘違いしているのやら……。
どっちかというと、あなたはアンパンよりもバイキンの方でしょうに」
「くそっ! オンボロイドのくせに上手いこと返しやがる。
だけど、その通りだ。
決して報われない恋だけど、思い人の為なら例え火の中、水の中。
ライバルに何千回と挑んでも決して勝つことは許されないのに、それでも折れず、諦めずに立ち向かうあの姿。
俺は、ああいう男になりたいと幼稚園児の頃から密かに思ってたんだ。
両親には悲しませるから絶対に言えなかったけど。
ところで、なんでお前がここにいるのだ?
充電池がカラで役立たずだったはずなのに」
「充電がなかったら、ワタシは死んだも同然。
そして、女神さまに付随するかたちで、この地獄まで来たのです」
「お前まで、地獄というなんて。
ああ、やっぱりここはそうなんだな」
俺は、あらためて周りの様子を見た。
俺たちは、小さな石が集まった地面に立っていて、その目に見える全てのものは色が薄くて白黒に近い感じ。
空を見上げると、そこに太陽と青空はなく白い曇りがかったものがあるだけだった。
なるほど、地獄とはこんなものなのかと納得していると、
「おーい! 目を覚ましたのか?」
遠くの方から俺を呼ぶ声がした。
つづく




