恵ノ神様
「めっ、めっ、めめ、めめめめ、めめめめめめめめめめ、恵ノ神様に、あっ、遭われたのですか?」
あまりの素っ頓狂な動揺ぶりに先ほどまでしおらしく涙していたのが彼女だったのか疑いたくなる程。
しかし、そう問われた俺もなぜ、その名前を口にしたのか……?
おぼろげながら幼児の姿を思い出すもその映像は、頭の中でザッピングして正確な形は成さなかった。
「ああ、多分、会った。
会ったんだと思うんだけど……。
何故か思い出そうとすると思考が混乱して定まらないんだ。
自分で口にしておいておかしな話だけど教えてくれないか? 恵ノ神様とは何なのかを」
すると、くわっと目を見開いた女神はその顔を俺の眼前に持ってきた。
「わたし、恵ノ神様の大・大・大・大・大・大・大っファンなんですっ!!!」
目の前で興奮しながら鼻息荒くそう宣言した女神。
俺は、あっけに取られて何も言えない。
「恵ノ神様は、Twiitterでご活躍されている極一部のマニアックな人に大人気の知る人ぞ知る有名人です」
「知る人ぞ知る有名人って、もう有名じゃないよね……」
「かく言うわたしも恵ノ神様をリスペクトしているひとりでして毎日、深夜0時と朝7時に流れるツイートには正座をして有り難く読ませて頂いておりました。いつもコピペしてらっしゃる同じ内容でしたけど」
「……。えっと、それでどういう方なのかな?」
「いつもは、その時報のようなツイートで『早く寝ましょう』とか『おはのすけー』という挨拶しかしないんですけど、たまに予告なくされるツイートがとにかく面白いんです!
そのアイコンに使われている可愛い幼児の姿とは真逆のブラックな皮肉の効いた暗黒ジョークがわたしは大好きでいつもチェックは欠かさずしておりましたわ」
「暗黒ジョークが大好きって、確かお前は女神ですよねっ!
それで、恵ノ神様は他にどんな凄いことが出来るのかそこを教えてくれるかな?」
「いえ、もうこれだけですけど。
わたしも恵ノ神様が好きすぎて、ひとつのツイートに50件くらいリツイートしてたら、ある日突然『もう勘弁してくらさい』ってDMが着たときは本当に嬉しかったのを覚えてます。
でも、その後、完全にブロックされてリツイート出来なくなっちゃって……。
だから、わたし、もっと恵ノ神様のことを知ってお近づきになりたいんです。
すみませんが、もう一度死んでもらえませんか?」
「いやだよっ!!! なんでそんなことの為に死ななきゃならないんだよっ!!!」
すると、今度は違う方向から声をかけられた。
それは、預けていた壁からスッと背中を離したドザエもんだった。
「まあ、どんな力が働いたにせよ生き返れて良かったじゃないですか。
これでまた、こっくりさんが続けられますね」
「絶対、二度とやるもんかいっ!!!」




