異世界、再び
気付くと俺は、また暗闇の中に浮かんでいた。
周りを見渡しても俺の身体以外は何もなく、ただただ無限に漆黒が続いているようだ。
「……リン」
どこか遠くの方で誰かの声が聞こえたような気がする。
それを今度は聞き逃すまいと耳を澄ました。
「……ダーリン」
確かに聞こえたその瞬間、俺はベッドの上で目を覚ました。
もう暗闇はなく、目に映るのは涙を流して顔をクシャクシャにした女神と借りている宿屋の天井である。
「あれ? 俺は、いったい何をしてたんだっけ?」
まだ、頭の中がぼんやりする俺に女神の傍らに立って驚きの表情をしたオリビアがこう返した。
「お前、本当に大丈夫なのか? もう、何時間も心臓が止まってたんだぞ」
その言葉に今度は、俺が驚いて横を向くと女神は涙を裾で拭って嗚咽しながらもコクコク頷き肯定する。
俺は、あらためて自分の体がどうなっているのか確認する為に手のひらをグー・パーしてみたり天井をみたり足下をみたり。何となく頭のこめかみ部分を触ってみたりしたが、身体には何の異常も確認出来ず。
いったいどういう状況なのか教えをこうべく再び女神の顔を見ると、落ち着きを取り戻しながら彼女は話始めた。
「あなたは、こっくりさんの呪いで一度、死にました。
当然、魂のリンクでつながっている私たちも一緒に地獄に落ちることは前にも教えたと思いますが今回、そうとはなりませんでした。
なぜなら、あなたの魂は死亡と同時にこの場で完全に消滅したのです。
私も初めて見る現象で何が起こったのかは分かりませんが、魂が消滅した場合、当然ですが二度と生き返ることが出来ません。それどころか、どんな世界にしても転生や転移もありません。次の人生など存在しない正真正銘の根幹存在の終わりなのです。
しかし、驚くべきことにあなたの魂は再構成されて、その容器である肉体も時間が戻るように生き返りました。
奇跡です。
これ程の奇跡を起こせるのは、神の中でも最上位に近い存在だけでしょう。
出来れば、わたしにも教えてくれませんか?
あなたの魂が消滅していた時、いったい何が起こったのかを」
自分が知りたいことなのに、逆に質問を返されて俺は躊躇した。
死んでいる時間の記憶などあるはずがない。
そう、あろうはずもないのだが……。
おぼろげな記憶の中、ひとつの単語が俺の頭の中に浮かび言葉として漏れた。
「……、恵ノ神様」
そのひと言を聞いた瞬間、女神が明らかに驚愕した。




